第14話 海坊主

月明かりが部屋に差し込む時間

ここは組合ギルドトルガルド支部の医務室

とても数時間前まで死闘を繰り広げていたとは思えないほど

よいリズムを刻みながら寝息を立てる 一人の少年

そのベットの隣の椅子に座り 片時も目を離さず見守る一人の竜人少女


「哲人・・・・・」

時折 こう呟く

無論 寝ている少年が起きないように聞こえない声で

この時 少女の心の中にあった感情は複雑であった

無茶をしすぎだと怒りたい

生きていてありがとうと感謝したい

こうこんなことしてほしくないと泣きつきたい

されど

一番多いのはやはり・・・・

ここまで自分を欲してくれた愛おしさ

様々感情がある中で

まずその目を開けたらこう言いたい


「大好きなのじゃ」


そんなことを考えていると

ドアがノックされた


「よいのじゃ 入れ」

「はっ」


はいってきたのは


「夜遅くに失礼します 殿下」


熊のような老人 ベルガルド


「うむ でなにようなのじゃ?」

「いえ 弟子の様子をみに来ただけです」


そういってベットで寝る少年をみる


「よく眠っていますな」

「あぁぐっすりなのじゃ してベルガルドよ」

「はっ なんでしょうか」

「この籠手 カウザルギーを渡したのはお主だな?」


フィルが哲人から外した籠手を見せる


「はい そのとおりです」

「ならば ここまで過激にする必要はなかったのではないのか 

 こんな高価な籠手なのじゃ こんなものを渡すのなら すでに哲人が軍神になることを期待していたのではないか?」

ある意味での恨みを込めた瞳で元軍神に問いかける


「いえ 私が哲人に求めたのはこのトルガルドを守ることだけですので 軍神を目指すとは欠片も思っていませんでした」

「・・・そうか わかったのじゃ」

「殿下 私からも一つ よろしいですか?」

「なんじゃ?」

「てつとは別の世界 出身ですよね?」

「そうじゃ」

「この少年の名前はてつとだけですか?」

「名前?・・・・あぁ フルネームは黒鉄哲人なのじゃ それがどうかしたのか?」

「くろがね・・・・・」


その名前を聞いた老人は考えごとをしていた


「・・・・・・・・やはりか・・・・・」


その様子を不思議に思った少女は


「どうしたのじゃ?」


問いかける


「いえ なんでもありません では私はこれで・・・」


そういうと 老人は部屋から出て行ってしまった


「なんじゃ くろがね?確かに珍しい響きじゃが・・・・そんなに変かの?」


今はそんなことはどうでもいいと思った少女は再び少年の看病に入った


微睡のなかから意識が浮上する・・・・


水の中から出るような感覚 しかし体が重い この感覚 覚えがあった

そして察する きっとまた素敵な天使が出向かえてくれるのだろう

そう思って 重い瞼を持ちあげる

そうそこにいるのはきっと愛しの竜人少女フィル

そう期待に胸を膨らませ目を開ける

そこにいたのは月光に照らされ神秘的な美しさを放つ天使・・・

・・・ではなく


禿げた頭に月光が反射している海坊主であった・・・


「ん? うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉおおぉお あんた誰だ?


てゆうかこんなところで眠るなよ!重いわ!」

乾いた音が部屋に響く

混乱していたのだろう 勢いで引っぱたいてしまった 髪の毛が宙を舞う


「ふおっ ううん? む?いかん寝てしまったか」


若干の肥満 片方にしかレンズがない眼鏡 白衣を纏っている老人


「あんた 誰だ?」

「おお! 起きたか少年! 私の名はシーボルト!君を治療した回復魔法の使い手だ!」

む まさかの医者か これは失礼なことをしてしまったな


「そ そうでしたか それはどうもすみませんでした」


左手で後頭部をかこうとすると 鈍い痛みが走った・・・


「え?左手がもう治っている?」


しかし 


「動かせない・・・・痛ぇ・・」

この鈍く その気になれば動かせないこともない痛みは


「筋肉痛か・・・・」

「どうやら 腕は問題ないらしいな ほれ鏡 顔も確認するといい」


鏡に映りこむ自分の顔もみる 自分の顔も触ってみるが


「傷の一つもない・・・正直 顔もえらいことになると思っていたけど」

たしか腕はぐちゃぐちゃだったはず それに顔は陥没していた

 これは相当な使い手だな・・・


「治していただき ありがとうございます!」


深く頭を下げる


「いや それは私のせいではない 回復魔法をかけたのは確かに私だがこんなに早く治ってしまうとは私も思わなかった」


首を傾ける 言っている意味がよくわからない


「あの それはどういうことですか?」

「私も正確な原因はわからない しかし君の体はとても回復魔法がよく効く体質らしい」

「・・・・・ そうなんですか」全く身に覚えがない・・・なんでだ?


頭を捻って考えていると


「哲人 おきたのか!」


ドアの向こうから 天使の声が聞こえてくる


「む これは私は邪魔のようですな」


そういうと老人は部屋から出ていく

そして 再度ドアが開かれ 愛しの少女が姿を現す


「フィル おはよう よく眠れたよ」


ああ 本当に可愛いな そう思い顔をよく見てみると・・・・

僅かに震えており 目尻に涙が溜まっていた・・・・え?


「哲人!哲人!哲人!てつとぉ!」


そういいながらベットに駆け寄ってくる

それを両手をひろげて待ち構え・・・

そこにフィルが突っ込んでくる

そのまま少女は少年の胸に顔を埋める 

少年はそのまま少女を抱きしめる


「哲人!てつとぉ! 心配したのじゃぁ」

「うん・・」

「怖かったのじゃぁ」

「うん・・・・」

「もう会えぬかと思ったのじゃぁ」

「うん・・・大丈夫だよ おれはここにいるよ」


よほど 不安だったのだろう 本当に申し訳なくおもう

それに 失礼だがうれしくなってしまう

この少女は己のことをここまで深く思ってくれる

そう実感できる


「てつとぉ」


泣いてしまって少し赤い目でこちらをのぞき込んでくる

不謹慎だがやはり泣いていても可愛いものだ


「どうしたの?フィル」


こちらもフィルの目をのぞき込むと

竜人少女フィルは最高の笑顔で

「大好きなのじゃ!」


・・・・・・これはやばい なにがやばいってこのままだと押し倒してしまう

ひとまずフィルの肩に手をおくと

少しはにかみながら目を閉じる

その顔 あもうヤバい

そしてそのまま互いの顔が近づいていき

ひとまずは軽く付ける程度で


「これ以上したら ちょっと心臓が持たないね」

「そうなのじゃ 爆発しそうなのじゃ」

「そうですね 爆発すればいいと思いますよ」

「ん?」


「へ?」

この部屋には俺とフィルだけのはずだが 聞いたことのある誰かの声が・・・

天井になんか扉がある 誰かが飛び降りてくる 

あの高さから飛び降りても音一つしない忍者かよ


「こんばんは 殿下 哲人さん」

「ガブリエルさん? どうしてこんな時間に?」

「わたしの任務は殿下の護衛ですから 殿下が眠らなければ私も眠りません」

「ガ ガブリエル? おぬしどこから き 聞いておったのじゃ?」

「哲人 哲人 てつとぉ からですが?」

「初めからではないか!」

「それよりよろしいのですか?殿下 」

「何をじゃ!」

「料理です 殿下がてつとさんのそばから離れたのはそのためでしょう?」

「あっ えっと それは そうなのじゃが 」


なんかフィルが急に戸惑う


「どうしたの?」

「えっと そのあまりうまくできていないのじゃ・・・」


皇女だし しょうがないかやったことないだろうし


「大丈夫ですよ 殿下」


ガブリエルさんがフォローしている


「殿下が作ったものなら たとえ バジリスクの毒が入っていても笑顔で食べてくださいますよ」

・・・フォローかそれ?

「失礼な!バジリスクの毒よりマシなのじゃ!」


・・・マシ?


「でしたら大丈夫ですね 食べていただきましょうか てつとさんに」


・・・え?ガブリエルさん?


「のぞむところなのじゃ!」


俺抜きで話が進んでいる?

フィルが俺に顔を近づけてくる


「という わけでわらわの料理を食べてくれ 哲人!」


なんかずいぶんと気合が入っているな・・・


「あ うん勿論 いただくよ フィルの料理 絶対完食するよ!」


断言すると


「流石哲人なのじゃ!」


めっちゃ嬉しそう顔してくれるフィル


「ふふふ 言いましたねてつとさん・・・」


なんかガブリエルさんがすごく悪い顔をしている

フィルが笑っているならいいか

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