第12話 決闘条件

ここは南方城塞都市トルガルドの鍛冶屋ベル 

太陽は隠れ 月が顔をだす時間に

三人の人物が対峙していた 

竜人の皇女 フィルメニア 異世界に迷い込んだ絶絶賛中二病を発症の高校生 黒鉄哲人

そして 今まさにお前 すなわち黒鉄哲人を殺すといった老人

元九軍神 鎚神 ベルガルド


「な それはいくらなんでもやりすぎであろう!」


愛しの少年が殺されるとあっては黙っていられない竜人の少女

声を荒げて抗議する こんなことしなくてもいいと

しかし 


「いや いいよ フィル 俺はやる」


その少年に止められてしまう


「し しかし 死んではなんもならない しかもこんな勝負でこれで魔獣が減るわけではないのだぞ

 ベルガルド!やめよ こんなことをしても帝国の利益にならないのじゃぞ」

「殿下!これは軍神を目指すものにとって必要な試練なのです 軍神とはたとえどんな敵が相手でも逃げてはならない 軍神が戦場なら去るのは相手を殺したときか自分が殺されたときだけ 軍神に退路はない

もし退路があるならそれは前だけですぞ」


相手は元軍神 言葉の重みが違う そして心の中では納得してしまう その通りだと

帝国五百年の常勝無敗は彼らのこの壮絶な覚悟ななければ実現しなかった されど・・・


「し しかし」


やはり 理性が納得しても 心が納得しない

だって・・・・


「哲人 お願いなのじゃ やめてくれないか?」


この少年なのだ その覚悟を背負わせるのは よりにもよって愛しいこの少年なのだ

しかも自分のために 九軍神を舐めていた

皇女である フィルですらそう思う

うつむいて地面をみてしまう 

そんな少女の頭に手がおかれる


「フィル 大丈夫だから」

「し しかし哲人! わらわのために!こんなこと!」

「うん フィル これはフィルのためにやるんじゃない」

「え?」

「俺の我がままに付き合わせてごめんな」

「わがままなど!」

「いいや これは俺の我がままだ でも大丈夫 きっと生きているから 分かってくれるね?」

「うぅぅぅぅ 分かったのじゃ でも哲人でも約束してくれ! どんなことになっても生きると」

「うん 約束 俺はフィルのもとに帰ってくる」 


優しい笑顔で答える 不安な気持ちもちょっとははれる

すると おのずと少年と少女の顔が近づく


「哲人・・・」

「フィル・・・・」


もう目の前だ 互いの暖かい吐息がわかるくらい


そして そのまま・・・・


「うおぉぉぉほぉぉぉぉっっっっっっんんんんんんんん」


行かず 盛大なそしてわざとらしい咳払いによってさえぎられる


「うおっ」

「はわっ」


冷静になる フィルと哲人


「えーーー殿下 そういうことはできれば哲人が軍神になってからしていただきたいですな」

「なにっ 長すぎるのじゃ!」

「それは ながい!」


あまりにながいので 抗議の声をあげる バカップル


「そうえば 殿下 まだ聞いていないことがありましたな」

「聞いてないこと?」

「はい 殿下はどうやってこの街に?」


ぎくっ とい擬音が聞こえそうなほど慌てるフィル


「うぐっ そ それはじゃな」

「まさか また?ですか」

「う そ そのそうなのじゃ」

「はぁー またですか 親衛隊も苦労しますな」


このやりとりについていけず 取りこされる哲人 事情説明をもとめる


「それどういうこと?」

「そ それはだな えーと哲人はわらわがなんの魔法をつかえるか 知っておるか?」

「うーん 空間関連の魔法だっけ?」

「それも あるのじゃ そしてわらわは二度世界を渡った あの世界に迷い込んだときすなわち哲人をあったときじゃな」

「うん そうだね」

「そして その世界から帰ってきたとき これで計二回なのじゃ」

「そして 世界を渡る度に一つ強力な力を授かる すなわち二つの力があるのじゃ」

「お~ それはすごいな どんな力?」

「ふっふっふっ 聞いて驚け なんと空間魔法と時間魔法が使えるのじゃ」

「おおっ すごい」

「そしてそのその二つが合わさると 転移魔法がつかえる」

「おおーー え じゃあ フィルは?」

「そう 帝都の城から転移してきたのじゃ 無断で」

「・・・それ大丈夫なの?」


はぁーーーーーーー

と盛大なため息が聞こえる

ため息の主は


「ベル爺?」

「大丈夫なわけあるか 今頃 城は大混乱だろう」

「あ それは大丈夫なのじゃ」

「なんですと?」

「いまさっきガブリエルとあったからの 城にも連絡がいったじゃろうな」

「そうですか 親衛隊も苦労が絶えませんな 特にあの子は」

「ガブリエルさんが?」

「そうだ ガブリエルが使える魔法は予言 だから殿下の転移先がわかる 先にきて殿下をの護衛をしている 親衛隊のなかでもあの子は特別な立場だからな」

「そうなのか」

「まぁ いくら転移とは言ってもそんな便利なものではないのじゃ」

「フィル?」

「馬鹿みたいに魔力を食うし その影響で数日は魔法がつかえん そんなに正確ではないし 転移できるのは わらわ一人だけ 使い勝手が悪い魔法じゃ」

「そうなんだ じゃあなんでフィルはこの街に?」

「それが・・・」

「それが?」

「帝都の菓子屋に転移するはずが この街に・・・ここまでずれたことはなかったのじゃが」

「なるほど そのおかげで俺はフィルと再会できたのか」

「うむ 運命しか感じぬのじゃ」

「そうだね」

「哲人・・・」

「フィル・・・」


そしてまた互いの顔が吐息を感じる距離まで近づき・・・・


「うぉぉぉぉぉぉほほぉぉぉぉぉっっっっっっっっんんん」


再び盛大な咳払いで遮られる・・・・デジャブである


「またか・・・・」

「またなのじゃ・・・」


残念そうな バカップルである

まぁしょうがないと割り切り哲人は尋ねる


「で ベル爺 その試験?についてだけど いつやるの?」

「明日の朝の二つ目の鐘が鳴る時間に組合ギルドまでこい それまでは好きに過ごせばいい 自分なりに鍛錬するなりな 殿下 哲人のことを任せてもよいでしょうか?」

「うむ わかったのじゃ」

「だそうだ わからないことがあるなら殿下を頼るといい それと今日はもう遅い今日はここに泊まっていけ」


「了解した ありがとう」

この返事に対して少々ベル爺が驚いたような顔をする


「・・・・ずいぶんと冷静だな 明日お前は死ぬかもしれないだぞ」

「あぁ そうだな だけど これもフィルの隣にいるためだ それにフィルに甘えきりだとベル爺が殺さなくても自分で死にたくなる」


この答えに対してニカっと笑うベル爺


「はっはっはっはっはっ いいぞ いい心がけだ これは明日が楽しみだ」


この日一番に機嫌がよさそうだ

そうしてこの日は幕を閉じた






フィルと哲人が鍛冶屋ベルから去った後

鎚神ベルガルドは月を見上げかつての戦友との思い出に浸る


「そっくりだよ お前に 本当にそっくりだ」


そのささやきを知るのはこの街を見下ろす

月だけだった



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