7 そして運命は、華麗に逆転する。
心から。心の底から。
◆
逢羽悠里は、あらゆる手段を使ってチョコを受け取るまいとするだろう。
そしてその友人Aは、あわよくばチョコを手に入れようとハイエナのごとく目を光らせる。
居宇子から
逢羽に渡そうとし、失敗すればどうするか。どこの馬の骨とも知れない輩に寄こすことだってじゅうぶんありうる。
取り返さねばならないと、黒栖居宇子は考える。
あるいは――今はもう、名白の目はない。名白は逢羽が断るのを見て、ショックを受けたのか中庭から去ってしまった。
早くその傷心に寄り添って、あわよくば……と多少は思うものの、何はともあれフォローするのが友人としての務めだ。
時間はかけられない。かといって実力行使はスマートじゃない。
ならば――受け取らせるしかない。
(逢羽くんがチョコを受け取った――その〝事実〟を伝えれば、きっと名白さんも喜ぶでしょう)
それは二人に〝今後〟が生まれてしまうということだが、逢羽の方は自分が受け取ったものが名白のチョコだとは知らず、名白も名白でこれまで通り、直接アタックすることはなく日々は過ぎるだろう。
これまで通りになるように、居宇子が工作すればいい。
なんなら、現在彩籐の手にある名白チョコを利用すれば、逢羽と彩籐をくっつけることも可能かもしれない――
問題は、このチョコを居宇子あるいは彩籐からのものだと逢羽に思わせた上で、どう彼にチョコを受け取らせるか――
名白の目がないとはいえ、ここまできたら逢羽も意地になるかもしれない。
しかし、あと一押し――決め手になれば。
「この私からのチョコが受け取れないっていうの?」
「あ、アレルギーなんで……」
「じゃあ受け取るだけ受け取って、家族に食べさせたらいいじゃない!」
「なんでそこまで……? え? これって何かの罰ゲームとかですか……?」
「こいつ要らないそうなので俺にくださいお願いします!」
「誰よあなた」
「クラスメイトですが!? 彩籐さんとは毎日顔あわせてましたよね!?」
やはり押し問答をしているらしい一堂に、居宇子は近づく。
「逢羽くん」
呼びかけると、逢羽の顔色が目に見えて悪くなる。
恐らく今、彼はこう思っているだろう。これは修羅場だ、などと身の程を知らない愚かな妄想を。あるいは居宇子のものを断った手前、ますます彩籐からは受け取れないと考えているのか。居宇子は名白の友人だから、彩籐のチョコを受け取ったことが名白に伝わる恐れもある――などと。
なんにしても――彼が、黒栖居宇子の「立場」を弁えているのであれば、まだ勝機はある。
「据え膳食わぬは男の恥っていうわよ?」
「据え膳……!? 私にそんなつもりは――!」
まずは、「居宇子の手前受け取れない」という、その考えから攻略する――
「俺は男なので頂きます! どうぞこの俺にチョコをください!」
……まずは、この
「女の子からチョコをもらうことをただのステータス、質より量で見ているあなたに、彩籐さんのチョコは相応しくないわ」
二度と遠吠えをあげられないよう徹底的にその心をへし折らなければ――
「お、俺は……! バレンタイン弱者なのでどんなチョコでも、誰からのチョコでも超嬉しいです! 質も量も関係ない、もらえるものならなんでももらう!」
恥も外聞もない――
「好きなヤツからしかもらわないとか贅沢だ! なんであれチョコには気持ちがこもってるんだよこの野郎! 俺にチョコをくれるなら、俺はその子を好きになる自信がある!」
自称・弱者の意地、あるいはプライドか。認識を改める。こいつは使える。
「彩籐さんがせっかく用意した『本命』なのに、受け取らないなんて失礼よね」
彩籐の面子を保つためにも受け取るべき、というプレッシャーを与える。
「ほんめ――」
彩籐が余計な口を挟む前に、居宇子は畳みかける。
「私のチョコはただの義理チョコで、私が勝手につくったものだから、受け取らなくても別に構わないの。手間も時間も材料費もかかったけど、ぜんぶ私が勝手にやったことだから」
「う」
「だけど、彩籐さんのチョコは『本命』……何より〝気持ち〟がこもってる。いくら食べられないにしても、渡されたからには受け取ってあげるのが男ってものじゃないのかしら。断るにしても、別に今すぐ応えなくたっていいじゃない?」
それに――と、居宇子は決定打を放つ。
「たくさんもらってる男子相手の方が、名白さんも渡しやすいんじゃないかしら」
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