第9話 だまされていた島田

いくら気丈に振る舞っていても、高柳愛唯はまだ20歳を越えたばかりの女性というより女の子である。

事件の心労は、計り知れない。

店の女将たる萌がよく支えている。

しかし、萌とて、まだまだ若い。

そんなことが、長く続けば支えきれるものではない。

捜査を急ぐ必要が出てきた。

木田と勘太郎は、島田貞一の周辺に的をしぼった。

捜査人数を、大幅に増やして聞き込みに回った。

調べていくと、島田は中学生時代に補導歴があった。

原動機付き自転車を盗んで無免許運転で補導されていた。

相棒は、北村誠という同級生。

北村誠は、高柳愛唯のストーカーカードにも名前があることがわかった。

川端署の話しや、近所の話しを総合すると。

北村が1人ではできないので、島田を騙して共犯者に仕立て上げた構図が丸見えである。

島田のサバイバルナイフを入れていた保管庫の金庫にも、北村の指紋はあった。

更に調べていくと、三木幸太郎は、北村誠と島田を離れさせようとしていたことがわかった。

『そんな、まさか誠が・・。』

そこまでわかってもまだ北村を信じている島田。

『被害者2人の接点と共通点

 は何や・・・。』

本間は、その辺りに動機があるものと考えている。

乙女座のスタッフの話しを総合すると、その辺りが見えてきた。

園田貴史と北村誠は、高柳愛唯をめぐって恋敵であることはわかっている。

島田も、北村の金蔓として、数回来店していた。

園田は、いち早く、その辺りを見抜いて、島田に注意するように言っていた。

つまり、園田貴史と三木幸太郎は、島田と北村を離れさせようとしていたという共通点があった。

三木幸太郎の乙女座への来店履歴は、たったの1回で、しかも園田が殺された日である。

北村と島田と3人で話しをしていたという。

園田が帰り支度をして帰っていくと、北村が後を追うように出て行ったが、店のスタッフは、島田と三木が残っているので、支払いに問題なしとして気に止めていなかった。

翌日のニュースで、園田貴史が殺害されたことを知った三木は、当然のように北村を疑ったと思われる。

三木から北村に、その疑いを話すために吉田神社大元宮で待ち合わせたと思われる証拠が出てきた。

三木幸太郎の携帯電話に会話が録音されていたのだ。

ICレコーダーも、三木幸太郎の自宅の部屋の机の引き出しから発見された。

三木幸太郎は、北村誠から呼び出しの電話がかかった時から、自分が殺されると予想していたふしが見受けられる。

自宅出発から、吉田神社大元宮に到着して、しばらくまでが克明にSNSにアップされている。

北村誠が、大元宮に入るまでが、動画になっていた。

そこまで見せられて、ようやく騙されていたことに気がついた島田。

『あの野郎・・・

 俺を騙すだけなら・・・

 殺人って。』

勘太郎は、さすがに島田が可哀想になって。

『おいおい・・・

 君が騙されていたことは怒

 らへんのかよ。』

島田は、しばらく項垂れて。

『僕は、仲も良かったし・・

 友達も少なくて・・・

 ある意味、自業自得やない

 ですか・・・

 そやけど、幸太郎は・・・

 ましてや園田さんまで。』

島田のサバイバルナイフ窃盗の容疑と園田貴史と三木幸太郎の殺人容疑で、北村誠に逮捕状が出た。

『あのアホ・・・

 サバイバルナイフの保管

 庫は、しっかり拭いとけっ

 て言うてたのに、俺の指紋

 見つかったんですか。』

北村誠が、自分が逮捕されたのは、島田が悪いように言ったものだから、木田がキレた。

『てめえ・・・

 島田は、必死でお前みたい

 なカスをかばって・・・

 最後には、騙されてた自分

 が悪い、自業自得やとまで

 言うとったんやぞ・・・。』

北村は、それでもまだ島田に責任を押し付けようとする。

『逃げようとしても無理や。

 今回は、島田に助けてもら

 えへんわい。』

木田は、腹が立って仕方がない。

『あんな奴、ツレやと思たこ

 とないわい・・・

 えぇように利用してただ

 けや。』

吐き捨てるように言う北村に、木田はどんどん腹が立っていく。

『アホか・・・

 利用ちゃうやろう。

 悪用やんけ。

 もう、てめえみたいなカス

 としゃべっていたない。

 とりあえず、送検する。』

物証が揃っているので、他人に罪を押し付けようとしても、できるものではない。

『最低でも、無期懲役や

 ろう。』

木田は、完全にキレていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

京都魔界伝説殺人事件・崇徳天皇 近衛源二郎 @Tanukioyaji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る