第8話 辛いのは愛唯

いきなり、連続殺人事件の様相を呈してきた。

東山安井と吉田神社大元宮。

とにもかくにも、逓信病院の梨田医師による鑑定の結果を待つしかない。

しかも、今回は、極力解剖を控える約束だ。

しかし、そこは超一流の法医学者の梨田である。

困難と思われる鑑定だが。

梨田医師は、CT・MRI・レントゲン等の画像診断とエコー等の超音波機器を駆使して、まったく切らずに死因を突き止めてしまった。

『もっとも、最初のCTで、サバイバルナイフの傷が、心臓まで届いていたことがわかったからなぁ。

かなりキツイ怨みで刺さんと、あんな深くまでは刺せへん。』

捜査員が、聞き込んできた話しを総合すると、三木幸太郎はそれほど深い怨みをかうような人物とは、思えない。

『ところで、ストーカーカー

 ドの方は、どうなってる。』

本間は、そのことが気になっていた。

三木幸太郎を刺し殺したサバイバルナイフに残っていた指紋の主は、高柳愛唯がストーカー被害を申告した中に名前が連なっていた、島田貞一という男。

小林の聞き込みによると。

『島田は・・・

 三木とは、幼稚園から小学校

 中学校までいっしょで。

 遊び仲間だったそうです。

 高校から別々になったのです

 が、よく遊んではいたと。』

つまりは、仲は悪くなかったということで。

誰もが、島田を犯人とは思えないでいた。

だが、サバイバルナイフから出た指紋は島田の物だけ。

木田と勘太郎は、違和感を持っていた。

勘太郎が、何かに気付いたように、木田に近づいて。

『すんません・・・

 また川端署に連絡をしたい

 んですけど。』

勘太郎が、川端署に問い合わせたのは、サバイバルナイフの紛失届か盗難届の中に、島田貞一が無いか調べる依頼であった。

10分ほどして川端署から島田貞一のサバイバルナイフ盗難届が出ているという返事があった。

しかも、2週間も前に。

だが、発見にはいたっていない。

それでは、犯行はできない。

どちらにしても、島田犯人説はあやしくなった。

しかし、勘太郎は木田に頼んで川端署に向かった。

『サバイバルナイフの盗難や

 ったら当然、鑑識やってま

 すよね。

 その時、島田の部屋から出

 た指紋に手がかりがありそ

 うな気がするんです。』

サバイバルナイフという特殊な物の盗難のため、島田貞一の自宅は、かなり入念に捜査されていた。

島田は、しっかりと登録した上で、規定通りの保管庫を作っていた。

銃刀法をしっかり遵守していた。

保管庫の鍵は、壊されて、現在も修理できていない。

『鍵屋さんの順番待ちで・・

 だから、それまでは、もし

 見つかっても預かってほし

 いんですけど。』

実際は、そんな呑気な状況ではない。

島田は、まだ三木の事件を知らないようだ。

『実は、昨日の節分祭でな。

 三木幸太郎君が、君のナイ

 フで刺されて殺された。

 だから、手がかりを探しに

 きたんや。

 君は、友達やったんやろう。

 捜査に協力してくれ。』

勘太郎の説明に、島田は、ひっくり返るほど驚いた。

『刑事さん・・・

 それで、なぜ僕が疑われな

 いんですか。』

島田は不思議になった。

『君のナイフや・・・

 指紋は、ついてなかったら

 かえっておかしい。

 それに、君は、クソがつく

 ほど、真面目に保管するほ

 どのナイフ使いや。

 大切なナイフで、人殺しな

 んか、できひんやろう。

 しかも、三木君とは親友や

 言うてもえぇぐらいや

 ろう。』

疑う必要あれへんで。

勘太郎の話しを聞いて。島田は泣き出した。

『刑事さん・・・

 僕で出来ることやったら、

 なんでもやります。

 そやから、絶対犯人を捕ま

 えて下さい。』

島田と三木幸太郎は、幼稚園から小学校、中学校を卒業するまでいっしょに登校していた。

ボーイスカウトもいっしょに活動していた。

いわば無二の親友と言って良い。

東山安井と吉田神社大元宮の殺人事件は、同一犯人による連続殺人事件として捜査する方針になった。

こうなると、辛いのは、どちらの事件も重要な鍵を、高柳愛唯が握っていることになって、心労が重なることになる。

心を支えるべき恋人、園田貴史は第1の殺人事件の被害者で、すでにこの世にいない。

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