第7話 連続殺人?

吉田神社大元宮の殺人事件の被害者、三木幸太郎の遺体は、ひょんなことから判明した両親の確認により、三木幸太郎本人であると確認された。

『御愁傷様です。

 いろいろ調べなければなり

 ませんので、ご遺体は、し

 ばらくお預かりします。

 極力早くお返しできるよう

 に頑張ります。

 犯人逮捕に必要なことです

 ので、ご協力をお願いし

 ます。』

三木幸太郎の両親は納得して帰って行った。

もちろん、快諾であるはずはない。

非業の死を遂げた我が子が、解剖されるかもしれないのだ、快諾などできるものではない。

大元宮の鑑識捜査は、範囲を敷地内全域に広げている。

大元宮は、中央の本社を囲むように、全国の八百万の神々が集う形で奉られている。

その中の祠の一つの後ろに、血糊のついたサバイバルナイフが落ちていた。

『それでは、ご遺体と拾い集

 めた証拠品と我々鑑識は、

 本部に戻って調べに入り

 ます。』

佐武が本間に報告した。

大元宮にバックドアを向けて、リアハッチを開けていた鑑識の貨物車のハッチが閉められて助手席に佐武が乗った。

貨物車とは言っても、警察車両である。

赤色回転灯を回して、サイレンを鳴らして走り去った。

祭りの人混みとざわめきが戻った大元宮前で、本間が呟いた。

『さっきから・・・

 なんやえぇ匂いぜぇへ

 んか。

 おかげで、腹減った。』

勘太郎と木田は、ため息をついた。

『木田・勘太郎・・・

 ビィヤントからんたんか。』

本間が言いかけた時、木田と勘太郎は、吉田神社本殿への参道に向かっている。

本間は、あわててついて行く。

『お前ら、どこ行くねん。』

『この匂いの元ですよ。

 50メートルほど下に、河

 道屋の屋台が出てますねん。

 蕎麦食べて帰ろかて、警部

 補と企んでました。』

河道屋といえば、京都でも老舗の部に入る手打ち蕎麦の専門店である。

その屋台があると聞いた本間が、木田と勘太郎を追い越して、先頭を歩いている。

木田と勘太郎は、半分呆れながら、ついて行く。

年越し蕎麦の立て看板と白い巨大なテントが左手に見えて。

呼び込みの声が聞こえてくる。

『たさかに、節分は、旧暦で

 は大晦日と正月やから。

 年越し蕎麦で間違いないん

 やけど・・・

 なんとなく違和感はある

 のぉ。』

本間は、えらく年寄りじみたことを言いながら、テントに入った。

3人は、風物詩だからということで、ニシン蕎麦を食べた。

最近は、年中あるが、やはり正月の物だろう。

木田と勘太郎は、何やら急いで食べている。

『そら、GTRが停まってい

 る限り、制服組が帰れませ

 んでしょう。』

木田と勘太郎は、自分達の立場をよくわかっている。

本間といっしょに行動するということは、そらいうことなのだが、本間は、自分が高い地位の人間と思っていない。

したがって、一番下の巡査とでさえ、馴れ馴れしく話し掛ける。

相手の巡査は、本間が何者かを知らずに話して、後から震えるということが多々ある。

それを、木田と勘太郎は気にしている。

GTRが停まっているということは、3人が、まだ吉田神社にいるという判断になってしまう。

交通整理の巡査達は、帰れずに、寒い現場で立っていることだろう。

木田と勘太郎があわてて食べるものだから、自然と本間も早くなって、3人は、あわただしく大元宮に戻って、GTRに乗り込んだ。

当然、吉田神社の裏口から坂を登って下りる。

先ほど、三木幸太郎の両親と通った道を逆戻りしている。

坂道を下りきるまでは、徒歩の参拝客もいるため、ノロノロ運転でゆっくりと下り。

坂道を下りきった小さな交差点は右は吉田山荘の石垣。

この小さな交差点を右折すると往路と同じ道なのだが、勘太郎は左折した。

『なんや勘太郎・・・

 来た道とちゃうやんけ。』

木田は、すかさず指摘したが。

『いや・・・

 佐武が、府警察本部の鑑識

 に戻るて言うてました。

 それやったら、今出川に出

 たろうかと。

 こっちの方が、道が太いん

 ですよ。』

勘太郎の言葉通り、左折して100メートル足らずで、対面通行の太さになった。

GTRは、時速30キロまでスピードを上げた。

今出川まで直接出られて、後は、一気に烏丸通りまで走るともう、府警察本部は目と鼻の先になる。

『こりゃ、この事件の捜査本

 部は、こっちにせなあか

 んか。』

本間が、本気で考えている。

木田は首をかしげている。

木田にしてみれば、自宅から近い本部の方が良い。

しかし、それほど上手くいくとも思えない。

とらぬ狸の皮算用ぐらいに思っていて丁度良いぐらいだろう。

この時、木田にはなんとなくおかしな感覚があったのだ。

そして、そのおかしな感覚が見事にビンゴ。

佐武によって、儚い希望は打ち砕かれた。

『警部・・・

 現場に落ちていたサバイバ

 ルナイフの血痕は、三木幸

 太郎のものでした。

 ナイフから、こいつの指紋

 がべったり。』

そう言って、1枚のストーカーカードを差し出した。

勘太郎が、それを受けとると、うめき声を上げた。

高柳愛唯のストーカーの1人だ。

『ということは、まさかの、

 連続殺人という可能性が。』

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