第6話 意外
本間は、こういうことがあるから、木田と勘太郎から目が放せないと思った。
本間には、少し辛いが、あまりに美味い。
この後、奥さんと何回も訪問するほど気に入った。
さて、捜査の進み具合。
勘太郎は、愛唯に対するストーカーが、フラれた腹いせに園田貴史の殺害にいたってしまったものと考えた。
それほど、愛唯がストーカーに悩んでいたのだ。
捜査は、そのまま完全に行き詰まってしまった。
『そらなぁ・・・
最初から、難しくなるとは
思っていたけど・・・
これほどとは。』
本間が、木田と勘太郎の前でぼやいていた。
その時、捜査本部の電話が鳴った。
『ハイ・・・
捜査本部小林・・・
エッ・・・
殺人事件・・・
吉田神社の大元宮・・・
本間警部に臨場頼むんで
すね。』
勘太郎が小林に指示を出す。
『小林・・・
今日は、吉田神社は節分の
お祭りや・・・
人混みと出店で。表からは
大元宮まで行けへん。
交通課に協力頼め・・・
吉田山荘の上の道から覆面
入れる。』
『なるほど、真如町から入る
んですね。』
吉田神社のある吉田山の表側は、東大路通り一条の交差点から東に入り、京都大学の正門とすぐ近くに大鳥居があって、普段であれば、自動車で裏口の大元宮まで抜けられる。
しかし、この日は、有名な吉田神社節分祭で。長距離の出店と数万人の人出でごった返しているはずである。
勘太郎は、混雑を避けて、裏口から入るルートを使うように指示したのだ。
だからといって、完全にクリアにならないのが、このお祭りの厄介なところ。
大元宮と、名前だけみれば、別の神社のようだが、吉田神社の一部である。
吉田山は、丸太町通りから今出川通りまでの南北。
東大路通りから白川通りまでの東西を占めて、大文字山の前に居すわる、標高こそ低いが、面積は、かなりの山である。
勘太郎は、本間と木田と共にGTRに飛び乗った。
東出清水署は、ほぼ五条通りに近い。
東大路通りを北上したGTRは、熊野神社前交差点を過ぎた、次の小さな交差点を右折して、聖護院のお寺の前を過ぎた次の交差点、右側には京都市立錦林小学校という交差点を左折して、しばらく走ってまた右折。
住宅街に入って行く。
登り坂の頂上を再度左折すると、左側に吉田山荘という旅館の石垣と大きな門があり、石垣を過ぎたところの小路を左折すると大元宮に出られる。
もちろん。大元宮の前もお祭りの範囲であるので、出店と人混みであるが、そこを前もって交通整理させようと交通課に依頼した。
大元宮前の出店は、節分祭の中でも一際大きい屋台で、聖護院八つ橋の屋台である。
大元宮前は、少し広くなっているため、車は駐車できた。
『警部・・・
お疲れ様です。』
と先着していた捜査員達が、挨拶してくる。
『被害者の情報、教えて下
さい。』
勘太郎が叫んだ。
『被害者は、若い男性。
身元確認書類ありません。』
佐武の声が返ってきた。
本間と木田と勘太郎の背筋に寒いものが走った。
『またかよ・・・。』
思わず呟く木田。
本間と木田と勘太郎の3人は、大元宮の鳥居前に並んでいる。
3人のそばに鑑識の佐武が近づく。
『着衣に不自然な乱れがあり
ます。
それが、存命中のものなの
か、死亡後のものなのか。
被害者は、ジーンズにフリ
ース上にダウンを羽織った
だけというラフなスタイル
ですので。
もしかしたら、はなから持
ってへんかったという可能
性もあると思います。』
吉田神社は、京都市左京区の住宅街のど真ん中にある。
近くの住民なら、現金だけ持って、ふらっと散歩がてらということも考えられる。
『あのぉ~・・・
お巡りさん・・・
僕、あのお兄ちゃん知って
ます。
隣の幸太郎お兄ちゃん
です。』
大元宮の入口封鎖をしていた制服巡査に、子供が話しかけた。
そんな会話を、勘太郎が聞き逃すなどということはない。
『ボク・・・
あの寝てはるお兄ちゃん知
っているの・・・。
いつも。遊んでもろてると
かか。』
勘太郎、意外と優しい口調。
『うん・・・
いっつも、逆上がり教えて
もろてる。』
勘太郎に、優しいお兄ちゃんと同じ感じを持ったのか、少年は、いろいろと教えてくれた。
被害者は、近くの真如堂という寺の門前町に住む三木幸太郎。
少年は、隣の家に住んでいるという。
少年が、逆上がりが出来ないので、毎日、教えてもらっていたらしい。
『じゃあねぇ・・・
このおじちゃん達を、お兄
ちゃんのお家に連れて行っ
てくれへんかなぁ・・・。』
なんと、あくまでも優しい口調の勘太郎・・・
自分を指さしながら、少年に頼んだ。
『ウン・・・
いいよ・・・。』
少年は、快諾してくれた。
その間に、木田が聖護院八つ橋を購入している。
本間と木田と勘太郎に佐武を加えた4人は、少年の案内で、三木幸太郎の家に連れて行ってもらった。
三木家の前では、少年の迷子札から、電話番号を見た巡査が電話をかけて連絡をしていたので、少年の母親と三木の両親が待っていた。
本間が、三木の両親に確認に同行してくれるように頼んでいる間に、木田は。
『お母さん・・・
坊や、誉めてあげて下さ
いね。
私は、京都府警察本部捜査
1課凶行犯係係長の木田と
申します。
これ、おじちゃん達からの
ご褒美です。
後から、感謝状とかお渡し
することになると思い
ますけど、とりあえずの、
ありがとうの気持ちです』
それほどまでに、困っていたのだ。
一方の三木幸太郎の両親は、履き物を履き替えて、出てきてくれた。
少年と三木の家から大元宮までは、300メートルもないが、吉田山を登って下りる、急な坂道である。
三木の両親は、けっこうな年齢のはずだが、意外なほどの健脚で、吉田山を越えてしまった。
『吉田神社いうたら、厄除け
の神様やのに、その境内の
しかも大元宮なんて、全国
各地の八百万の神々が集ま
るところで。
罰当たりも甚だしい。』
本間は、かなり憤っていた。
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