第5話 盲点が

愛唯と萌を乙女座に送って捜査本部に帰った勘太郎が、木田に持ちかけた相談、

『警部補・・・

 俺、川端暑に行ってきます。

 ちょっと気になることがあ

 って、捜査資料を見せても

 らいたいもんで。』

勘太郎のこういう相談は、かなり良い線を行っていることが多い。

『いや・・・

 俺も行く。

 警部・・・

 勘太郎が、なんか捜査資料

 見たい言うてますんで。

 川端暑に行きますわ。』

勘太郎。何やらメモに書いて木田に見せている。

『ビィヤント』と『らんたん』と少し間を空けて書いてある。

木田が、ビィヤントを指差した。

昼ご飯である。

そんなことに気づかない本間ではない。

『ちょっと待て・・・

 儂も行く。

 お前らなぁ・・・。』

本間にしてみれば、勘太郎と木田に同行すれば、まず間違いなく美味しいご飯に当たるのだ。

川端暑には、勘太郎が過去の捜査書類閲覧を電話手配していた。

川端暑は、今をときめくエース刑事が来訪するということで、沸き立っていた。

ところが、いざ有名な覆面パトカーが到着してみると、京都府警察が誇る敏腕トリオが勢揃いしている。

川端暑員は、大騒ぎになってしまった。

3人、玄関から入ると勘太郎は、生活安全課に向かった。

『お願いしてました事件の書

 類と担当者の方を・・・。』

そこは、本間にはわからない行動。

木田と勘太郎が、資料を見ながら時折、担当者に質問している。

何枚か捲った勘太郎の手が止まった。

『警部補・・・

 どう考えても、こいつ怪し

 いですね。』

勘太郎が差し出した資料に目を通した木田が振り返って。

『警部・・・

 これ見て下さい。

 めちゃくちゃ怪しいと思い

 ますが。』

資料は、ストーカー事件の捜査書類。

被害者は、高柳愛唯。

関係者欄に、園田貴史の名前もある。

しかも、ストーカー行為は、日を追うごとに激しくなっていた。

『この中の誰かが何か。』

ストーカー事件の担当者が不思議な顔をした。

『今朝、園田貴史さんが遺体

 で発見されました。』

勘太郎の説明に、絶句した担当者をしり目に、本間は渋い顔。

『なんとなく、揃い過ぎちゃ

 うか・・・

 いかにも過ぎて気持ち

 悪い。』

もちろん。確率は低くはないのだが、あまりにも簡単過ぎるのは、気持ちが悪い。

『とりあえず、気になる奴の

 資料を何枚かコピーしても

 らえ。』

本間、そろそろ腹が減ってきた。

東大路疎水の川端署を出た覆面パトカーは、北に向かった。

丸太町通りの交差点。

西北の角に熊野神社があるので、交差点名は熊野。

この辺り、実は、全国的に有名な聖護院である。

熊野交差点から、北に100メートルはあるのか無いのかぐらいのところに小さな交差点がある。

この交差点を東に入ると、聖護院というお寺がある。

この交差点の西北の角から始まる巨大な建物群。

京都大学医学部附属病院である。その前も通過した、勘太郎の覆面パトカーは、次の近衛通りの交差点を右折して東に入ると、突き当たりの少し広くなったところでUターンして東大路通りに戻ると、左折して南に数100メートル行って停車。

屋根には赤色回転灯が乗っている。

東大路通りに面して、古い感じのお店に黄色の看板で『ビィヤント』と書いてある。

行列のできるカレーライス専門店だ。

『よし・・・

 カツカレー中辛にしよう。

木田が、呟きながらドアを開けた。

ランチ時を過ぎているので、ほとんど並んでない。

本間は、甘口をチョイス。

この店、甘口が普通の辛さという。かなり辛口である。

だが、柔らかく食べ易いようにと叩きに叩いて、薄くなるまで叩いて揚げて、スプーンに乗せ易い一口大に切り分けたカツは、サクサクで芳ばしい。

それを、サフランライスにトッピングして、趙がつくほどの深いコクが出るまで煮込んだ辛口のカレーを掛ける。

手間暇をしっかりかけた丁寧な仕事のカツカレーライスである。

『なんじゃこれは・・・

 こんなん、クセになるで。』

本間は驚いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る