第3話 ほんの少し
京都府警察本部捜査1課課長の本間警部の命令により、東山安井金比羅宮から500メートル程度の距離にある。
京都府警察清水警察署の中に、この事件の捜査本部が開設された。
『サブちゃん・・・
科捜研の坂本主任を呼んで
くれへんか。
勘太郎は、逓信病院の梨田
先生にお願いしてくれ。』
あっという間に、捜査本部として、形が整っていく。
全員が揃うまでに、2時間程度だった。
すぐに第1回の捜査会議が始まった。
『とにもかくにも、まずは被
害者の身元確認や。
スーツ姿で、身元がわかる
物を、まったく持ってへん
なんてことは、考えに
くい。
どんな小さなことも見落と
すな。
行ってくれ・・・。』
捜査員達が、東山安井の駐車場と交差点に出て行った。
勘太郎、何を思ったのか、東山安井金比羅宮に入って行った。
『宮司さん・・・
実は、すぐそこの駐車場
で、殺人事件があったん
ですが。
実は、被害者の身元がわかり
ません。
目撃者、探してまず。
ポスター貼らしてもらえま
せんか。』
『どんなポスターですか。』
宮司が、ポスターを覗き込んだ。
ポスターに印刷した被害者男性の写真を見て。
『あっ・・・
園田様・・・
昨日、最後にご祈祷させて
頂きました・・・。
芳名帳、お見せしましょう。
しばらくお待ちを。』
そう言うと、後ろの引き出しを開けた。
勘太郎、あわてて木田に電話。
『マジか・・・
勘太郎の魔界好きで、棚から
ぼた餅ってかいな。』
宮司が表に向き直って、ご祈祷申し込み書を見せてくれた。
『園田貴史・・・
平成8年生まれですか。
女の子とごいっしょだった
んですね。
連絡先は、お2人とも携帯
電話ですか。』
詳しく書かれているご祈祷申し込み書を、メモ帳に丸々書き写した勘太郎が、とんでもないことに気がついた。
『宮司さん・・・
女の子って、派手な感じと
違いますか。』
申し込み書の女の子の名前、高柳愛唯と書かれていた。
『女の子さん、お名刺頂いて
ますよ。』
と、名刺入れを出してくれた。
『拝見します。』
木田が受け取って、叫びそうになった。
『おい・・・
勘太郎・・・
これって・・・。』
祇園会員制乙女座、愛唯と書かれている。
『やっぱりそうですか。』
小さい手がかりどころではない。
『どうされたんですか。
高柳様が何か。』
宮司が驚いた顔をしている。
『このお店・・・
乙女座の女将さん・・・
こいつの奥さんですねん。』
『なんと・・・
あの有名な、高島萌さんの。』
勘太郎の表情は、どんどん曇っていく。
悲しい現実だが、愛唯に伝えないということはできない。
東山安井金比羅宮から乙女座までは、徒歩10分くらいの距離だが、勘太郎は、重い気分で足を引き摺って歩いていたので、30分近くかかってしまった。
心配した木田が付き添っている。
四条花見小路の交差点を渡る時には、木田が後ろから急かさねばならないほどだった。
乙女座の前の通りに入ると、目ざとく萌が、夫の姿を見つけて、様子が変なことにも気がついた。
勘太郎と木田に駆け寄って。
まずは、木田に挨拶をした。
『ダーリン、どうしたん。』
『愛唯ちゃん出勤してるか。』
勘太郎は、重い口を開いた。
『そうそう・・・
愛唯、昨日、彼氏さんから
プロポーズされたんです。』
女将の萌としては、従業員の幸せが嬉しい。
『お相手の・・・。』
そこまで萌が話した時、勘太郎が遮って。
『園田貴史さんやろう。
昨日って、そんな良いこと
やってたんや。
警部補・・・
俺、なおさら。犯人が憎い
です。』
萌は、飛び上がるほど驚いた。
『ダーリン、なんで園田さん
を知って・・・。』
そこで、止まった。
何かの事件の捜査で帰って来ているのだ。
『あかん・・・
ダーリン、しっかり更正さ
せてあげんと。
愛唯ちゃんが苦労する。』
園田貴史が、何かの事件の犯人と勘違いした。
『無理や・・・
今朝、救命救急の添田さん
から呼び出されたやろう。
殺人事件やってな、その被
害者が園田さんや。』
当然、萌は絶句した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます