12.公爵ご令息はため息もの……?


「さ、お兄様は、リィナリッテ様をエスコートして、サロンまで案内してくださいな」

 子供のように屈託のない笑顔で、兄サレズィオ様の手をひくサレニアーナ嬢は、私から見ても美少女で、やはり兄妹らしく面差しが似ている。美人兄妹だ……


「重ね重ね、申し訳ない。エルヴィス様には……」

「あったことすべてを一つ一つ話すわけではありませんから」


 婚約者のいる女性を、身内でもないのにエスコートするのは気がひけるのだろう。

 私も、さっきまで教師だった方の手にそって歩くなど緊張する。


「一応、この茶会は元々予定されていたものだ。昨夜の夜会の成果を話し合う為に、アナが友人を招いてくだらない話をするためのもので、リィナリッテ嬢には愉快なものではなかろうに。体調を理由にでも何でもいいから断れば良かったのだ」

「そうは申されましても、公爵家の正式な招待状をいただいて、特に理由もなくお断りする訳には……」


 ち


 お上品なはずのサレズィオ様から舌打ちの音が…… これも聞かなかったことにしよう。



 サレズィオ様の腕に沿わせる程度に手を重ね、真っ赤なロール絨毯の廊下を進み、複数の女性の笑い声が漏れるサロンへと向かう。


 途中、執事やハウスキーパーなどの上級使用人とすれ違うが、みな頭を下げ、目を合わさないようにして、私達が通り過ぎるのを待つ。

 通過後、動き出すようだが、何人かはため息を漏らしていた。


 見慣れていても、やはりサレズィオ様の、冷たく感じるほどに知性の溢れる美貌は、ため息が漏れるのは解る。


 銀縁眼鏡の知的美人って、需要あるわよね……

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