7.記憶喪失なのか、記憶障害なのか


 サレズィオ様とマリアベル様がお帰りになるのを見送った後、建物の奥にある図書室に戻り、それまで勉強したはずの資料を眺める。

 どれも、見た覚えはないが、サレズィオ様の復習考査にちゃんと答えられた。


 自分が誰なのか、どうして生きてきたのかはぼんやり思い出せないのに、これまでの経験は身について自然に使えるのが不思議。


 私は、本当にリィナリッテなのか、どうもしっくりこない。

 自分の部屋なのに、可愛らしい内装に少し引き気味になるし。



「お嬢さま、招待状が届いてますが……」

「招待状?」

 図書室で、メリルとお勉強の資料を纏めて片づけていると、昨日は会ったことがないメイドが封書を持ってきた。


 シグネットリングで家紋を圧して蝋封された正式な招待状のようで、蝋を剥がすのではなく、メリルに手渡されたペーパーナイフで隙間に差し込み、一気にビッと切り開封する。


 *****


 親愛なるリィナリッテ・フォン・エステルフェード=フォルタレーザ侯爵令嬢殿


 急なお誘い、失礼致します。


 昨夜の夜会では話せなくて残念でした。

 今朝も早くからサレズィオお兄様が訪問者なさってお勉強されているとのこと、体調は多少なりともよくなられたようで安心しました。


 つきましては、昨夜話せなかった代わりに、ぜひ、今日のお茶会に参加していただけませんか?


 体調が優れなかった翌日に呼びつけて申し訳ないのですが、リィナリッテ様にお会いして、花のかんばせで心温まる博学なお話をお聞かせ願いたいと存じます。


 身内の者ばかりの小さなものですから、お気軽にお越しくださいませ。



 マグダリニアス公爵家 第二息女 サレニアーナ・フォン・グロリアス



 *****


 差出人はサレズィオ様の妹君で、サレニアーナ嬢。

 サレズィオ様は公爵家の方。


 ため息しか出なかった……

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