5.朝から訪問者あり。どちら様?


「お嬢さま、今朝のお勉強はどうなさいますか?」

 遠慮がちに侍女が訊ねてくる。教育係の学者の訪問を告げられた。


「一晩ゆっくり休んで、もう、体調もよくなったわ。大丈夫よ、お通しして?」



 寝室から、テラスに繋がる寛げる空間に移動して、お茶をいただいていたところだった。

 メリルを伴い一階へ降り、廊下の最奥にある部屋──図書室へ。

 メリルが扉を開けると、白いものの混じった栗毛の女性と、銀縁眼鏡をかけた青みがかった銀髪を肩で切りそろえた青年が待っていて、立ち上がり、女性が頭を下げてくる。


「昨夜はお加減が悪くて夜会も辞されたとお聞きしましたけれど、もうよいのですか?」

 優しい声で訊ねてくれる。

 あまり派手な衣装ではなく、どちらかというと、学生服をドレスに仕立てたような、機能性重視のデザインに見える。……学生服?


「お気遣い、ありがとうございます。一晩休みましたらすっかり」

「それは良かったこと。アニエス様も安心されることでしょう」

 アニエス様がどなたかお訊きできず、どうしたものかと迷ってる間に、銀髪の青年が促してきた。


「体調が整ったのなら重畳、始めましょう。午前中の方がお勉強の能率がよいと仰られたのは、リィナリッテ嬢、貴女なのですからね。

 マリアベル殿も、早くすませて、貴女のあるじ、王妹殿下アニエス様のもとへ戻りたいでしょう?」

 夜会で見た男性達とは違って、カッチリとした服装の銀髪の青年は、眼鏡の位置を直し、分厚い本と、大きな地図を、テーブルいっぱいに広げる。


 聞きようによっては嫌味のような台詞も、マリアベル様はにっこり微笑んで受け流し、私の手を取ってマホガニー製のしっかりしたテーブルへいざなう。

「アニエス様は、ゆっくりと学ばれてよいと仰せでしたわ。焦って詰め込んでも身につかないからと。お気遣いありがとうございます。

 では、はじめましょうか」

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