3.月を見て思い出す人


 喉が痛みを感じて、目が覚めると、まだ真夜中だった。


 窓の外は真っ暗で、月も沈みかけているのか、二階にある寝室の窓からは見えなかった。


 ベッドの横にある猫足の小棚に置かれた水差しから少しコップに注ぎ、喉を潤すと、痛みはほぼひいた。


 なにか、夢を見ていたようだけど、よく思い出せない。


 ベッドから這い出て、柔らかいラグを踏んで、窓辺にたつ。


 昨夜、エルヴィス様にドレスを脱がされたのは恥ずかしかったけれど、正直、少しの頭痛と眩暈で、ゆっくりと重いドレスやアンダードレスを順に脱ぐ手間が省けて助かったと、今なら思える。


 夜着に着替えるのも億劫で、あのままシュミーズ姿で眠ってしまったほどだから。


 ドレスは、侍女が丁寧に手入れをして、クローゼットに片すのをベッドから横目で見ていたから、大丈夫だろう。

 侍女という存在には本当に感謝する。体調が優れなくても、代わりに色々とやってくれるのだから。命令しなくても、気を利かせて先にやってくれる子もいるほどだ。楽チンと言えば楽だが、自堕落な生活になってしまいそうで、少し怖い。


 窓の外をぼんやり眺め、庭園の端から林の方に視線を移すと、まだ沈まずに樹々にひっかかっているお月さまを見つけた。


 月明かりを反射して常緑低木の若芽が少し淡い緑に見え、白く黄色い綺麗な月を見ていると、樹木の緑も月の白金色も、エルヴィス様を思わせた。



 あの方は、私には勿体ないお方……

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