2.手を取ることのできない、向こう側の人


「ねぇ! 見て見て! 理奈。ほらこれ、これやってみて! 絶対面白いから」

「優理子、私はゲームはいいわ。本の方が、落ち着いて楽しめるし……」

「もう、絶対面白いのにぃ」

 子供のように口をとがらせてむくれる優理子。


 私の部屋のテレビに少し古いゲーム専用機を繋いで、スイッチを入れる。

「じゃあ、私がやるから、理奈は見てて? で、時々選択肢が出るから選んでね?」

 断ったのに、どうしてもやらせたいらしい。苦笑しつつ頷く。


 画面いっぱいに、煌びやかなお城が映り、薄藤色の綿毛のような髪の女の子のアニメ画が動き出す。

 音楽に合わせてテロップが流れ、ゲームだと聞いたのに、まるきりアニメ番組のオープニングのようだ。


 やがて、曲にあわせて男性声優の歌声が代わる代わる流れ、変わる度に、画面の青年のアニメ画も変わっていく。


「理奈は、どの子が好み?」

「どのって言われても……みんな色違いの似たような顔じゃない?」

「そこは漫画だもん、言いっこなしで」


 オープニング曲が終わりタイトル画面が出る。操作せずにいると、再びオープニング曲が流れ出す。


このままでは埒があかないと諦め、適当に決めようと、入れ替わる青年のアニメ画を眺める。


 真っ青な髪が長くて面長の成人男性。


 オレンジ色の短い巻き毛にそばかすの可愛い女の子みたいな華奢な少年。


 緑色のさっぱりした髪、深い緑の目が印象的だった。


 多分銀髪なのだろう、水色の髪のおかっぱで眼鏡をかけて賢そうな男性は少し偉そうにポーズをとっていて笑いを漏らしてしまう。


「優理子、さっきの、緑色の髪の……」

「ん、ああ、アルフォンソ? あーゆーのが好みなの?」

 もう、緑の青年でいいか、と決めようとした時。


 金髪の髪をきっちり撫でつけてオールバックに、ドレスシャツが似合う優雅な感じの青年がこちらを向いて微笑み、スッと手を伸ばしてくる演出を見たとき、つい、手を延ばしかけた。テレビ画面の中の青年の手をとれるはずもないのに。

 恥ずかしくなって、手を引っ込める。


 その様子をみていた優理子が、クスクス笑いながら、コントローラーの決定ボタンを押した。


「やだ、理奈、なぁに、エルヴィス様がいいのぉ?」

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