15.思い出せないのに、恋してる?


 彼の言い分が本当なら、私たちは以前から両思いで結婚する間柄 という事になる。


 私は・・思い出せないけれど、身体は正直なのか、ドキドキするし、呼吸も乱れるし、奥の方がギュッと締め付けられるような苦しさも感じるけれど、不思議な事に、まったく嫌な感じはしないのだ。


「でも、その、具合もよくありませんし、ドキドキし過ぎて苦しいのです」

「ふふふ。具合はよくなくても、気持ち悪くはないんだね?

 良かった。触れられたくない、気持ち悪いと言われたら、しばらく立ち直れないところだよ」

 今は、落ち込んでくれてた方が、私の心臓や呼吸のためにはいいような気も……


「熱もあるようだし、真っ赤なままだね。……わかったよ、今は、おとなしくしてようか。でも、居場所はこのままだ。それは譲れないよ?」


 あからさまに残念そうな表情をして、髪や耳元、首筋などにすり寄るのはやめて、ただ抱き寄せるだけになる。

 それでも、慣れてない私には・・・・・・・・息苦しいのだけれど、子供のように残念がる彼が可哀想な気もして、おとなしく腕の内に収まって小さくなった。


 私の家につくまでの時間にして小一時間、約一名を除いて、居たたまれない空気が漂っていた。


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