10. 私の家の馬車も、あなたの馬車?


 私の母よりかは若そうな、30代後半から40歳に入ったくらいの年齢の女性は、メリルから事情を聞いている。


「体調が良くないのに無理に参加することもないだろうと思って、抜けてきたんだ。屋敷まで送ろう」

 青年は、私を抱きかかえたまま、飴色の馬車に乗り込んだ。メリルと元々馬車で待っていた女性も続いて乗り込む。


 進行方向に向かって、青年が座り、横抱き状態からおろされたものの、なぜか青年の膝の上という、不安定かつ恥ずかしくて落ち着かない、とても危険な位置だ。


 進行方向とは逆向き側に、メリルと女性が並んで座っている。


「あ、あの、このままでは、危ないでしょう? おろしてください」

「大丈夫だよ、ちゃんと抱えて支えておくよ。熱でふらふらしてるままも危ないだろう?」


 そうかな? 背もたれやクッション越しに壁に寄り添ってれば、大丈夫なんじゃないかしら?


 でも、青年は、私をおろす気はないらしい。僅かに抱き寄せる腕の力が強くなり、

「やってくれ。

 侯爵邸までちゃんと支えて、無事送り届けるからね、安心して?」

馬丁や馭者に声をかけて、あたかも自分用の馬車であるかのように振る舞っている。でも、私の侍女が乗って待ってたのだから、私の家の馬車よね?


こういうところが、身分の高い方なのだろうか……



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