9.乙女の憧れ、お姫さま抱っこが重荷です!


「キャアァ」

「エルヴィス様!?」

「黄金の君が、女性を?」

「素敵ですわ♡」

 羽根飾りや房飾りも雅やかな扇で口元を隠して、女性達が色めき立つ。

 黄金の君……とは、この場合、私を横抱きに抱え運んでいる青年の事だろう。


「あ、あの、皆様から注目が……」

「致し方ない。目立つのが嫌いな君には申し訳ないが、このまま我慢してくれ」

「倒れたと言っても、今は、大丈夫ですから。それに、正絹のドレスも幾重にも重ねられたレースも、……私も、重いでしょう?」


 転がり落ちないように、仕方なく、彼のドレスシャツの袖をきゅっと掴む。


「自分の婚約者のひとりくらい、抱えられる程度には鍛えてあるつもりだよ?」


 私達の後ろについて歩いている、メリルと、もう一人、青年の従者だろうやや年嵩の青年が、厚手のカーテンをめくり、ダンスホールから廊下へと繋がる扉を開ける。


 定期的に太い柱があり、その隣には、台座に花瓶やオブジェが飾られていたり、等身大の彫刻や、大きな絵画が飾られている廊下を十数分進み、大きく開かれた観音開きの扉をくぐると、何台もの馬車が行き来している玄関ポーチに出た。


 その間、私には、すれ違うすべての人から好奇の目を向けられる、罰ゲームか拷問のような時間に感じられた。


 少し離れた垣根に沿って、たくさんの馬車が並んでいる。そのうちの二台が、近寄ってくる。


「お嬢様、どうなされたのですか?」

 悲鳴にも似た、焦った声で、中年の女性が馬車から降りてきて、長いスカートをつまみたくし上げ駆け寄ってきた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る