#6

「この傷は……?」


彼女の背中には、大きな傷跡があった。

ちょうど左右の肩甲骨の間あたりに、紫がかった、稲妻のような傷跡だ。こんなに大きな傷は初めて見た。

女性物の下着も、直接しっかり見たことはなかったが、そんな興奮よりも、その傷について詳しく聞きたい気持ちの方が大きかった。


「ロクには、話しておこうと思って。」


彼女は神妙な面持ちで切り出す。僕は、一旦落ち着くために、ベッドに腰を下ろした。


「わかった、聞くよ。座りな。」

「うん。」


彼女は肩にカーディガンを羽織って腰掛ける。少し震えているのか、自分自身を抱きしめるように、ぎゅっと腕を掴んでいる。これから話そうとすることが、彼女にとってとてつもなく大きなものであることは容易にわかった。


少しだけ沈黙になる。停滞した時間の中で、僕は彼女が口を開くのを待った。


「中学二年生の時に、交通事故に遭ったの。」


静かに彼女は話し出したが、その内容は壮絶なものだった。


「家族で山奥にキャンプに行く途中、山道のカーブで曲がり切れなくって崖から車ごと落ちた。


落ちた直後はまだ両親も意識があったんだけど、どうしても身動きが取れなくて。そしたら、だんだん熱くなってきて、目の前がオレンジ色になった。


よくわかんなくて、でも、隣にいたお母さんが早く出なさいって。それで、何とか抜け出して、でも脚がもう動かなかったから


……呆然と燃えてる車を見てるしかなかった。何回もお父さんとお母さんを助けようと思っても、熱くて。


その途中で燃えた破片が背中に落ちてきた。


もう意識が戻ったときには、病院だった。」


言葉を発するごとに、彼女の眼には涙がたまっていく。こんなにつらい過去があったとは、想像もつかなかった。彼女の天真爛漫さの裏には、いつも重たい影がのしかかっていたのだろう。


「両親が亡くなってから、あたしはお父さんの弟夫婦に預けられて、今も生活させてもらってるの。だから、余計な苦労をさせるわけにはいかないし、お金もかかるから、アルバイトしてる。」


なるほど、ほぼ毎日アルバイトをしているのは、そういうことだったか。綺麗だと思っていた古本屋での彼女のイメージに少しだけズレが生じた。


僕は、そっか大変だったね、とあたりさわりのないことを言おうとした。あまりにも悲惨な出来事を聞いてしまったため、その言葉しか出てこなかった。


でも、彼女はそんなことを言ってもらうために僕に話をしたわけではない。

ましてや、異性である僕に自分の素肌まで見せるという覚悟が彼女にはある。

もはや、大変だったね、なんてことを言うのは、野暮だという結論に至る。

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