第17話 中華食べつつ雑談

「マリコさんが中華上手いのよ」

「へえ」


 テーブルの上には点心という奴がちまちまと、だが種類豊富に置かれていた。普通の料理にしても良かったのに、と言うFAVに、TEARが言ったのが前の言葉である。


「で、それが?」

「んにゃ、だけどあの人点心はあんまり作らないの。大鍋料理系はよく作るんだけど。麻婆豆腐だの家常豆腐だのエビチリだの野菜いためいろいろだの八宝菜だの中華飯だの酢豚だの」

「? どうして?」

「やっぱり皆で囲めるからじゃない? 中華の利点ってそれだからさ」

「囲めるって点では鍋だってそうだと思うけど」

「それじゃあ料理人もつまらんだろーに。そんな、料亭じゃねーんだから素材にこだわるほどのことはしねーし…ああそーいや、八宝飯は作ってくれたことがあるな」

「何それ」

「まあお菓子だろーな。アップサイド・ダウンケーキって知っとる?」

「何であんたそんな料理名ばっか並べられる訳?」

「単にいつも貧しいんだよっ。まあ要すんに、ケーキの型の底にチェリーだの何だの、ドライフルーツ並べといて、それでタネ流し込んで、焼き上がるとそのドライフルーツがちゃんと上に来るって奴だけど」

「ふむふむ」

「で、その『ケーキ』が甘くした餅米なのかな。ラード風味か何かの。で、餡も詰まっていたっけ…… まあ饅頭みたいなものだな」

「ほー」


 ちなみに卓上には包子や餃子、ちまき、春巻きと言ったものの他にお菓子もある。桃まんだの蒸しパンだの、マンゴープリンだの。とにかく飲茶を夜やっているようなものである。ウーロン茶がポットに入って置かれている。


「でもあんたよく食うよね」

「あん? そう?」

「違う?」

「違わないけど」


 そしてその間もしっかり食べている。


「FAVさんが食べなさすぎるの。あたしは肉体労働の人だからね」

「へー。何やってんの?」

「最近やや休みがちだけどさ、工場のおねーちゃんしてんのよ」

「へえ」

「おかげで実に健康的な時間に起きざるを得ないという」

「ほー」

「おかげでこんな筋肉ついてしまった」


 ぽんぽん、とこの季節なのに来ているノースリーブからむき出しになっている腕を叩く。


「いいじゃん別に。贅肉じゃないんだから」

「うんいいさ、別にあって困るというものじゃない」


 でもこれだけしっかり食べて、必要な分しか付かない体質というのはFAVは非常にうらやましく思うのだ。

 しばらく黙ってしまったFAVに気付いて、TEARは手を休める。


「どしたの?」

「んー? いい胸してるなあと思って」

「別にしてねーよ」


 ん?


 何かがFAVの中で引っかかった。


「重いし揺れるし目立つしうざってえ」

「だけどいいスタイルじゃん」

「んなことねーよ」


 明らかに不機嫌である。これまでどんな軽口叩こうが、皮肉言おうが、そんな反応を彼女に向けたことはなかったのだ。


「その話は食事がまずくなるからやめよ」


 うん、とFAVはうなづく。

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