女王様と召使い



「一緒に遊ぼう」



 笑顔で手を伸ばしてくるのは次期女王様になるお方だ



「いけません」



 僕はその手を取らない



「どうして?どうして前みたいに遊んでくれないの?」



「あなたは次期女王様になられるお方です。私のような召使いとは差がありすぎます」



「そんなのどうだっていいわ。私はあなたと遊びたいの」



「いけません」



 僕のその言葉が気にくわなかったようで、姫は怒ってどこかへ行ってしまわれた



 それでいいのです、それで…



 僕のような召使いと遊んでいるところを見られたら

 国民から何を言われるかわからない


 そんなことで

 姫が女王になれないのは

 悲しすぎる




 だから僕は


 心を殺して


 姫に仕えることを


 決めたのだ



 この感情は


 決して


 悟られては


 いけない





 姫は自由奔放な方だ

 だから僕は小さい頃からずっと振り回されている


 遊びたいと言ったと思うと

 やはり勉強がしたいと言い出し

 甘いお菓子が食べたいと言ったと思うと

 やはりしょっぱいお菓子が食べたいと言う


 部屋でじっとしているかと思えば

 突然外へ飛び出し叫び出す


 僕はそんな姫の後を

 いつも追っている



 見慣れた姫の背中



 でもいつの間にか


 その背中は小さくなっていた



 守らなければ


 いつか誰かに


 壊されてしまうのではと


 怖くなるくらいに



 しかし姫は

 そんなことを気にした様子もなく


 僕に手を差し伸べる



『一緒に遊ぼう』



 今はもう

 その手を握ることはできない



 姫が僕を特別だと思う前に


 僕は姫から離れなければ


 しかし姫を守らなければ



 矛盾した僕の気持ち



 結局僕は


 ”守る方”に決めた



 その代わり


 姫に対しての態度を


 変えようと


 思った












 しかし






 召使いになったことで






 姫は僕への気持ちを








 膨らませてしまっていた

















「姫?どうなさいましたか?」



 姫の部屋に呼ばれて行くと

 広い部屋に姫が一人

 ベッドに腰掛けていた




 この部屋は小さい頃から

 僕が入ることは禁止されていた


 召使いになっても

 特別なことでなければ

 入ることが許されない



 しかし今日は


 姫が僕をよこさないと


 部屋から出ないと言い出したそうだ



 気が引けたが入らなければ姫は出てこない




「姫、わがままばかり言うのはもうおやめください」



「私は昔からこうやって生きてきたの。この生き方を今日から変えろと言うのは無理がある話じゃないかしら?」



「それでも姫は次期女王になられるお方です。品のある行動を取らなければなりません」



「それ、もう聞き飽きた」




 姫は僕の方へと近づいてくる




「私はね

次期女王になってあなたが離れていくくらいなら


























女王になんかなりたくない」





















「姫


なりません


それだけはなりません」



「なぜ?


これは私の人生なの


幸せは私が決める




私は国民の操り人形じゃない




女王や国王になりたい人なんてたくさんいるわ


その人達に譲った方がいいと思わない?」





 姫は僕の頬に手をあてる




 その手は小さくて冷たくて




 守らなければ


 守らなければ



 彼女を


 守らなければ





「私はあなたの側にいたい


あなたと昔みたいに遊びたいの


こんなに気兼ねなく話せるのは


あなただけなの



あなたは私を突き放す


けれどそれはあなたの本心なの?」





「私は



姫をお守りしたいのです」






「答えになってないわ」






 そう言って僕の頬から手を離し


 今度は手首を掴んでぐいっと引っ張る


 その引っ張った勢いのまま


 僕をベッドの上に転がす



 起き上がろうとする僕の上に姫は乗っかり

 ベッドに両手を押さえつける



 姫の長い髪が垂れ


 僕の鼻をくすぐる




「私の気持ち、分かっているんでしょう?」



 それは問いではなく

 確認だった


 無言を貫いていると

 姫は僕に顔を近づけ


 唇を重ねる




 それは長くて短く感じる




 姫が顔を上げると


 僕の顔に滴が降ってくる





















 姫は


 ”泣いてた”





















 僕はいま


 どんな顔をしているんだろう


 彼女のように


 泣いているのだろうか






「私のものになってよ」






 姫の掻き消えそうな声






 でもそれに応えることはできない






「命令、しないんですね」





 ふとした疑問を言ってみる




 両手が解放され

 体が軽くなる


 姫はベッドから立ち上がり

 涙を拭く




「命令してあなたが私のものになっても、ちっとも嬉しくないもの」




 泣いたからか目が赤くなっていた


 でも姫はそんなこと気にせず


 僕に笑顔を向けて




「絶対に私のものにしてみせるから」







堂々と言い放った











Fin.

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