セツナ物語
セツ
未来からやってきた男
俺は未来からやって来た男だ
この時代は平和だ
俺はこの時代が好きだ
でもこの時代にいれる期間は一年
それがタイムリミットだ
未来の空は青くない
鳥が空を飛ぶことはない
海は青くない
空気が澄んでいない
食べることすらままならない
生きているのが精一杯な時代
それが俺がいた未来
そんな生活はもう嫌だ
恐怖だらけの生活なんて
人を見たら泥棒だと思え
違う
人を見たら殺人者だと思え
そう教わった
人を信じるな
疑う心を忘れてはいけない
背後には気をつけろ
こんな教育を受けるのが当たり前
だけどこの時代は違う
俺はこの時代に来て平和を知った
本当にあったんだ
平和な世界
空が青い
空を飛ぶ鳥達
海も青い
空気が澄んでいる
食べ歩きをする人々
生きることがこんなにも楽しいと教えてくれた
俺はある日、友達ができた
俺と同い年の男
初めは信用することができなかった
そう教えられていたから
それでも笑顔で話しかけてくれた
親切にしてくれた
こいつなら信じてもいいと思った
裏切られても後悔しないと思った
俺達は長い時間をかけて親友になったんだ
しかしタイムリミットは着実に近づいていた
正直に言おうと思った
『俺は未来からやって来た男だ』って
ふざけていると思われるだろう
笑われるのがおちだろう
でも言わなきゃならない
言わなきゃ絶対後悔するから
親友はいつもの通りやって来た
「こんな時間にどうしたんだ。珍しいじゃないか」
「ちょっと話しておきたいことがあってね」
「なんだい?」
「実は俺・・・」
息を呑む
「未来から来たんだ」
親友は驚かなかった
「へぇ」
「驚かないのか?」
「まあね」
「…それで、俺はそろそろ未来に帰らなきゃいけない」
「知ってるよ。そんなこと」
「………え?」
親友の言っていることが理解できなかった
「知ってるって言ってんの。俺はお前が未来から来た男だって初めから知ってた。知った上で仲良くしたんだ」
「なんで…?」
「なぜって?
それは簡単だよ
俺も未来から来た男だから」
「お前も・・・?」
「ああ。俺も
お前と同じ未来から来た」
俺だけじゃなかったんだ
単にそれが嬉しかった
「俺、この時代が大好きなんだ。
だから本当はずっとここにいたい。
お前とも出会えた。
ここは本当にいいところだ」
「そうだな。
ここはいいところだ。
だからお前、ここに”逃げて”きたんだろ?」
体から一気に冷汗が出てくる
なぜこいつが知っている
俺がここに来たのは”この時代が平和だから”というのは建前だ
「もう逃がさない」
親友の声が低く、獣のように唸って聞こえた
ああ、俺には天罰が下ったんだ
罪を償わずして
現実から目を背けて
平和を求めて
こんなところまでやってきた
でも罪を償わなかったことが
余計罪を重ねていたのだ
周りがどれだけ平和でも
俺の心の中は
平和なんかじゃない
平和になんかなれなかったんだ
こんなことになるなんて
後悔しないと決めたはずだったのに
初めての親友
嬉しかった
それは事実で
罪と同じで
なかったことにはできない
親友が向けるその目は
憎しみがこもっていて
そんな目を向けられるのはいつぶりだろうか
こいつは俺の親友だ
そして未来からやって来た男
こいつになら裏切られてもいいと思ったほど
俺が信じた男
だから
俺はお前にこう言った
「お前の好きにしてくれ」
Fin.
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