第九章二十四章 激戦

「何の策も無く正面から来るとは!」

「それは貴様も同じではないか?」


 目にも止まらぬ速度で交差した2台は、互いに剣を振り抜く。

 どちらの攻撃も命中していたが、Dragnaughtドラグノートの剣は当然のように無造作に弾かれており――しかし全てを切り裂くはずのAsrionアズリオンの剣もまた、弾かれていた。


「ただのAdimesアディメス結晶では、ないようだな」

「無論です。今のDragnaughtドラグノートは強化魔術を限界まで重ね掛けした、オーリカルクミアにも匹敵する装甲ですから」

「オーリカルクミア……リラの持っている、異国の希少金属か」

「流石は御子みこ様、よくご存知で」


 オーリカルクミアとは、平たく言えば「非常に頑丈な金属」である。

 Adimesアディメス結晶をも上回る強度を有し、武器にも装甲にもなる。しかしアンデゼルデの中でも産出量が少なく、また産出地が限定されているのも相まってかなりの高値が付き、量産機の装甲にはとてもではないが使えたものではない。


 だが、シュランメルトは即座に狙いを切り替えていた。


(闇雲に装甲を狙っても弾かれる……。ならば、関節を狙うか)


 即座にAsrionアズリオンを反転させ、再び急接近する。

 Dragnaughtドラグノートも振り向くが、それよりも早く大剣が右外側の肘関節を――


「ッ、硬いな! 関節ですらこの強度か!」


 一撃は入れたものの、予想外の硬さに思わず叫んでしまう。


(だが、関節は装甲が無い以上、強度は多少劣る。狙うならそこだ……)

「シュランメルト、急上昇して!」

「むっ!」


 と、突然のパトリツィアの指示に、シュランメルトは反射で応じる。

 刹那、先ほどまでAsrionアズリオンがいた場所に、光弾が飛来してきた。


「タケル達の援護か。多少被弾したところでどうにかなるものでもないが……助かった」

「いいの、それがボクの役割だから。ところでシュランメルト、フリューゲに当たったら流石にマズいよね?」

「そういう事か。確かにまずいな」


 やり取りをしながら、Dragnaughtドラグノートを見る。

 タケル達の放った光弾は命中していたが、大したダメージにはなっていない。


「だろうな。だが、注意はこれでれた」


 シュランメルトはあくまで冷静に、大剣の切っ先をDragnaughtドラグノートに向ける。

 そして素早く、三連続で光線ビームを放った。


 速度を重視して放った光線ビームは、通常放つそれよりもわずかに威力に劣る。

 しかしAsrionアズリオンの大出力であれば、誤差にもならない大威力であった。


 果たして――光線ビームDragnaughtドラグノートに命中すると、表面装甲をわずかに熔解させた。


「まだだ。行くぞ」


 それだけにとどまらず、シュランメルトはAsrionアズリオンに大剣を構えさせると、またも一気に距離を詰める。


「させませんよ!」


 だが、Dragnaughtドラグノートもやられるだけでは済まさない。素早く剣を構え、大剣と大盾を2本ずつの腕で受ける。


 と、シュランメルトがヘルムフリートに呼びかけた。


「聞こえているな、ヘルムフリート? タケル達を実験に用いて、その後はどうするつもりだった?」

「どうもしませんよ。生き延びたならまた使い、死んだらそれで終わりです」

「やはりな。貴様には倫理観が欠けている」

「倫理観はあるつもりですよ?」

「笑わせるな。アンデゼルデの者だろうがそうでない者だろうが、同じ人間だ」


 互いに言葉を交わしている間も打ち合い続け、ついにDragnaughtドラグノートの剣が限界を迎えて折れ砕ける。強化してあるとはいえ、Asrionアズリオンの持つ結晶質の大剣と大盾には、それでも強度で劣っていたのだ。


「そろそろ潮時だな、ヘルムフリート」

「そうですね。貴方が負けるという意味での潮時です」

「どういうことだ?」

「こういうことです!」


 一瞬の隙を突き、Dragnaughtドラグノートの外側の両腕が、Asrionアズリオンの両腕を掴む。大剣と大盾による振り下ろしを受けたものの、意に介していなかった。


「む、動きが……」

「いくら神速を誇るその機体であっても、動けなければどうにもならないでしょう!」


 ヘルムフリートは勝利を確信しながら、内側の手で拳を作り、構える。


「では、お覚悟を!」

「フッ、この程度で動きを封じたつもりか。笑止」

「む!?」


 だがシュランメルトは、余裕の笑みを浮かべていた。


「シュランメルトー、腕動かないよー? どうするのー?」

「確かにAsrionアズリオンの腕は動かない。腕は、な」


 シュランメルトは自身の両手に触れる半球状の入力装置に思考を送り込みながら、告げる。


「ならば、機体全体を動かせば良い事だ。Asrielアスリール、タケル達に『退避しろ』と伝えろ!」

「どういう意味……きゃあああああっ!?」




 そして、AsrionアズリオンDragnaughtドラグノートは、加速しながら高空から落下していった……。

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