第九章十九節 対峙

 魔導騎士ベルムバンツェを飛翔させること4時間半。

 途中何度かタケル達が態勢を崩した事もあったが、特に墜落や襲撃などのトラブルも無く、シュランメルト達はガルストに到着した。


「遅くなったな。リラ救出のかなめとなる三人を、連れてきたぞ」


 シュランメルトが乗っているAsrionアズリオンのすぐ後ろには、タケルのGroßerグローサー・ Tapfererタプファラー・ Ritterリッター、リリアのHellerヘラー・ Blinkenブリンケン・ Sternシュテルン、リンカのEwigエイヴィヒ・ Brennenブレンネン・ Flammeフランメが控えていた。


「なるほど、彼らが御子みこ様の仰った……。それに、何やら我らが守護神の加護を感じます」

「ああ。この時のために、Asrielアスリールが施してくれたものだ。もっとも……」

「もっとも?」

「いや、何でもない。忘れてくれ」


 シュランメルトは懸念事項を喋りそうになったが、飲み込んだ。

 作戦前という重要な時間に不安を口走るのは、将としては失格だ。何かを率いる者は、一度決断したからには成功する手段のみを考えるのが義務だからである。


(まだまだおれも、未熟なものだ。ともあれ、ここまで来た以上は、最後まで実行するのみ。さて、どう転がる……?)


 シュランメルト達はひたすら、23時まで待ち続けた……。


     *


「時間ですな。さて、ヘルムフリートはどう動くか……」


 大部隊の総司令官である将官が呟いた直後、1台のBladブラドが姿を現した。


「あれは……? 全隊、あのBladブラドを警戒せよ。ただし、こちらからは攻撃するな」


 飛ばされた指示に従い、4個大隊(192台)の機体が武器を構えた状態のまま制止する。

 前回のグライス邸襲撃失敗の報を受け、その反省を活かして倍の数を、グロスレーベは用意していたのだ。


『……王国軍の諸君らに告ぐ』


 と、Bladブラドから声が響く。何の変哲もない、男の声だ。


『閣下は、“子供達”との対話を希望されている。諸君らは一切の手出しをせず、ただ“子供達”を前に出すだけで良い。繰り返す……』


 男の言葉に聞き覚えのあったシュランメルトは、即座に将官とタケル達に伝える。


「タケル達の事だ。罠の可能性も否めないが、前に出させるんだ」

御子みこ様は?」

「話の邪魔にならん程度に近づいて警護する」

「かしこまりました」


 将官の合図で、隊列の間に大きな空間が出来る。

 Großerグローサー・ Tapfererタプファラー・ RitterリッターHellerヘラー・ Blinkenブリンケン・ SternシュテルンEwigエイヴィヒ・ Brennenブレンネン・ Flammeフランメがその間を通り、前へと出た。Asrionアズリオンもその後に続き、警戒に当たる。


『よくぞ来たな。待っていたぞ、“子供達”よ』


 新たな声が響く。




 声の主は、Dragnaughtドラグノート――それに搭乗したヘルムフリート・ベルリ・グライスその人であった。

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