第九章十八節 出撃

「シュランメルト。起きて……って、ちゃんと起きたね」

「当たり前だ。余裕を持って起きる事の出来る、睡眠時間にしたからな」


 パトリツィアが起こすよりも先に、シュランメルトは目を覚ます。

 目論見通り、明瞭な意識を持った状態で起床する事が出来た。


「タケル達も眠った可能性があるな。部屋に行って、起こしてやるか」


 寝る直前に行動予定を聞いてきたのだ。シュランメルトにならった可能性もある。

 シュランメルトは伸びをすると、タケル達の部屋へと向かった。


     *


「開けるぞ……やはり寝ていたか」


 三人仲良く、くっついて眠っていた。

 シュランメルトはそれを見て微笑みつつも、この後の作戦に備え、冷徹に予定を実行する。


「タケル、リリア、リンカ。起きるんだ。時間だぞ」


 一度の声掛けで、三人は同時に目を覚ました。

 それからゆっくりと、体を起こす。


「ふわぁ……。もう、時間ですか?」

「いや、まだ1時間半ある。ただ、眠り過ぎるのも体に差し障るぞ。そろそろ起きても良いだろう」

「分かりました。それで、この後は何を?」

「早めの夕食だ。念の為に携行食糧は持っていくが、それでも夕食無しでの作戦行動は無謀が過ぎるだろう。無理をしない範囲でいい、食べて行くぞ」


 シュランメルトは一足先に、食堂へ足を運んだのであった。


     *


 夕食と歯磨きなどの身支度を終え、時刻は17時25分を迎える。

 シュランメルト達は自身の魔導騎士ベルムバンツェの操縦席で、最終出撃準備が整うのを待っていた。


「いよいよだぞ。これで、ヘルムフリートとの戦いも終わりにしよう」

「「はい!」」


 シュランメルトが拡声機で、改めて決意を固める呼びかけをする。

 その直後、ベルリール城の整備兵が、ゴーサインを出した。


「準備は整ったようだな。行くぞ」


 シュランメルト、フィーレ、グスタフが先に格納庫から出る。タケル達も、それに続いた。


「ここからは飛翔機構フリューゲを使う。タケル、リリア、リンカ。指を伸ばせば届く位置に、引き金がある。人差し指や中指の第一関節に、触れるはずだ」

「えっと……これですね」

「ありました」

「引けば良いのか?」

「その通りだ。引けば魔力が噴射され、空を舞う。浮遊感に包まれるが、すぐに慣れるだろうな。フィーレ、グスタフ。支える準備をしてくれ」

「かしこまりましたわ」

「もちろん!」


 タケル達は指示された引き金を、ゆっくりと引く。

 するとフリューゲから魔力が噴出され、機体が宙に浮いた。


「うわっ!?」

「落ち着け! 落ち着くんだ、必ず慣れる!」

「は、はい……」


 シュランメルト達の支えもあって、タケル達は地面から十数メートルほど浮いた状態で何とか安定する。


「良し、その調子だ。次はもっと引け。機体が加速する」

「方向転換は?」

「操縦桿を左右に動かせば出来る。やってみるんだ」


 指示された通りに、タケルが操縦桿を操る。

 急加速するが、シュランメルトの支えもあってほとんどふらつかずに飛んだ。


「良い感じだ。他の二人も同様だな」


 シュランメルトはタケル達の様子を見て、満足そうに呟いた。


     *


 タケル達の飲み込みは早く、わずか30分の間に必要な感覚を掴んでいた。


「ぶっつけ本番だったが、ここまで早く慣れるとはな。これなら問題は無いだろう。さて、そろそろ18時だ。ガルストまで飛ぶぞ!」

「「はい!」」




 かくして、6台の魔導騎士ベルムバンツェが決戦の地へと飛び去ったのであった……。

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