第九章二十節 遅滞

 その声を聞いて、タケル達は身構える。


(あの魔導騎士ベルムバンツェにいるのが、僕達をアンデゼルデに連れ去った元凶……!)


 胸中にまず湧いてくるのは、怒りだ。

 しかしタケルは、恐れも同時に抱いていた。


「けど、近づいたらまずい……! あの機体は、間違いなくただ者じゃない……!」

「うん……。今の私達の機体ならともかく、前に乗ってた機体なら無事じゃ済まないかも」

「そうは言っても、近づかない事にはどうにもならないんじゃないのか?」


 意見の分かれるタケル達。

 と、Dragnaughtドラグノートから声が響いた。


『君たちが私を恐れているのは、分かっている。だから、無理に近づく必要は無い。聞こえているのだろう?』


 話しているのはヘルムフリートだ。

 タケルは一瞬戸惑うものの、三人を代表して答えた。


「は、はい……聞こえています!」

『ならば意思疎通は出来るな。さて、他でもない。君たちには機体から降りて、私達の元に来てもらいたいのだ。“ある事”を、協力してもらうために』

「それは、どういった……?」

『今ここでは明かせない。だが、君たちが協力してくれれば、リラ殿はお返しすると約束しよう』


 タケル達が、黙り込む。

 全てを終わらせるつもりでいた彼らだが、元々はリラ救出のためにここに来ているのだ。


『皆様、聞こえますか?』


 と、タケル達、そしてシュランメルトの脳内に、突如として声が響く。


『返事は要りません。ですが、今から言う事を実行してください』


 Asrielアスリールの声だ。


『出来るだけ長く、ヘルムフリートと対話してください。そうすれば、皆様にとって益となる事が、必ずや起こるでしょう』


 タケルはそれを聞いて頷くと、Dragnaughtドラグノートをまっすぐ見据えた。


「何をするかは明かせない、それについては分かりました。では、別の質問をします。ヘルムフリートさん、貴方はいったい、“何のために”僕達を必要としているのですか?」

『やがて訪れるであろう、侵略行為に備える為だ』




 ヘルムフリートは真剣な表情で、タケル達を欲する理由を話し始めた……。

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