第九章十六節 覚悟

 食後、歯磨きを終えたシュランメルトとタケル達は、自室に戻っていた。


「既に知っているだろうが、敢えて言おう。作戦決行は今夜の23時だ。それに先駆けて、18時にこのベルリール城を離れる。おれ自身にも言える事ではあるが、十分に体調、そして気力を整えてもらいたい」

「分かりました」


 タケル達が頷く。

 それを見たシュランメルトは、作戦概要を記した手紙を渡してから説明を続けた。


「作戦は既に、別動隊には伝えてある。だが、かなめとなるお前達が何も知らない状態であるのは、作戦どうこうの問題以前の話だ。だからこそ、今、伝える」


 頭に叩き込んでいる作戦を、シュランメルトが告げる。


「18時にベルリール城を離れて、作戦目標地点ガルストに到達するのは22時半だ。移動は飛行で行う。やり方はその時に教えよう。そして、おれとフィーレ、グスタフでお前達の機体を支えながら向かう。当然おれ達は、お前達の護衛も兼ねている。お前達はひたすら、リラ救出の気構えを持ったまま現地に向かってくれ」

「現地に着いてからは、どうする?」


 質問を投げかけたのはリンカである。


おれが指示するタイミングで、ヘルムフリートの元まで向かってもらう。場合によっては、おれは距離を取らざるをえんかもしれん。それは先にことわっておく。そして、奴の要求はお前達だからな。何が起こるやも分からん、覚悟は行くまでに決めておけ。話はここまでだが、質問はあるか?」

「はい」


 続いて質問したのは、タケルであった。


「何だ」

「僕達がヘルムフリートの元に向かったら、何をするんでしょうか?」

「それはまだ分からん。ただ、最低でも対話はしてもらうだろう。それが穏やかなものか、あるいは剣呑なものかは、おれにはまだ分からんがな」

「近づく事は、避けて通れないんですね……」

「その通りだ。そしてこの作戦は、おれすらも予想が付かない。『安心しろ』などという半端な言葉を、かける訳にはいかないのだ」


 あまり明るくはない表情のタケル達だが、シュランメルトは下手に取り繕わずに話す。

 無理もない。これから起こる事は冗談でも何でもなく、命にかかわる出来事なのだから。


「……それでも」


 と、流れを変える一言が発された。リリアだ。


「それでも、やります。私達は一刻も早く元の世界に戻りたいですし、何より……リラさんをはじめ、皆さんに恩を返せていませんから」

「承知した。タケル、リンカ。リリアは覚悟を決めているようだが、どうする?」

「僕だけ逃げる訳にはいきませんよ!」

「私もだ! このアンデゼルデでの最後の戦い、見事勝利しようではないか!」

「ならば、後は実行あるのみだな」




 それまでとは一点してやる気に満ちる二人を見て、シュランメルトは内心で微笑んでいたのであった。

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