第九章十一節 名前

 翌朝。

 朝食を終えたタイミングで、シュランメルトはタケル達を呼び止めた。


「期日を明日に控えたが、こちらで準備を進めておいた。詳しい話はおれにも分からんが、Asrielアスリール曰く、“とにかく格納庫に来てくれ”とのことだ」

Asrielアスリール?」

「ベルグリーズ王国の守護神よ、タケル」

「そんな偉い存在から……」


 今一つ意味を掴みかねる三人だが、言われた通りについていく。

 シュランメルトは歩きながら、話し始めた。


「そういえば、だ。まだ話していなかったかもしれない事が……いや、話したが深掘りしなかった事がある。おれが名乗っている“シュランメルト・バッハシュタイン”という名前は、真の名前ではない。いや、おれを示す名前の一つだが、それとは別に、与えられた名前がある。それは、“ゲルハルト・ゴットゼーゲン”だ」

「何度か、耳にしました。シュランメルトさん、貴方はどうして、二つの名前を?」


 三人を代表して質問したのは、タケルであった。

 シュランメルトはタケル達に一度、直接“ゲルハルト・ゴットゼーゲン”の名を伝えていたのだ。しかしその時はシュランメルトが激怒していたため、どちらからも深くは話せなかったのである。


おれは一時期、自身の名前も含めた記憶を失っていてな。そんな時に、リラから二つ目の名前をもらった。それが“シュランメルト・バッハシュタイン”だ。そして、どちらの名前も捨て去る気にはなれなかった。だから、二つの名前を使い分けているのさ。今まで話した“シュランメルト・バッハシュタイン”は、日常を過ごすときの名。そして“ゲルハルト・ゴットゼーゲン”は……おれが『守護神の御子みこ』として動くときの名だ」

「そんな事が……」


 タケル達にとって前々から引っかかっていた事が、今シュランメルトによって明かされたのである。


「だが、どちらの名前であってもおれおれだ。お前達との友情に、変わりは無い。……そろそろだな。Asrielアスリール、何をしてくれたのか……」




 シュランメルト達は、格納庫に足を踏み入れた。

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