第九章十節 光明

 翌朝。

 シュランメルトは朝食を取った後、すぐさまベルリール城にある書庫へ向かっていた。


「父さんならどうするか……今のおれにはよく分からん。だが、期日まではあと2日ある。記憶喪失のときは見逃していた父さんの本も、あるかもしれない」


 王家の好意により、シュランメルトはいついかなる時でも書庫に立ち入る事が許可されている。

 書庫前には許可なく立ち入ろうとする者を追い返すメイドがいたが、うやうやしく一礼してシュランメルトを迎え入れた。


「父さんの書籍は……あった」


 手がかりを求めるときに書庫で書物を読み漁るのは、もはやシュランメルトの習慣と化していた。

 アルフレイドが執筆した書物を2冊ほど手に取ると、その場に座り込んでひたすらページに目を通す。


「守りいくさ……違うな。“守りながら攻める”戦だ。タケル達は、必要な時までは何が何でも後方で待機させる。リラへの協力もあるから、それは徹底してくれるだろう。しかし、ヘルムフリートと話をつけるために前に出る……ここからが未知数だ。おれや神殿騎士団がいるとはいえ、あからさまに“護っている”と分かるような距離に……タケル達の至近距離にいるのは、かなり難しい話だろう。遠くから守る、そうなるはずだ……」


 シュランメルトは脳内で情報を整理しながら、ひたすら書籍を読み続けていた。


     *


「欲しい情報は無かったか……。他に父さんの書籍は見当たらない」


 夜。

 食事も取らず、ひたすら書籍を読み込んでいたシュランメルトだが、望む情報は得られなかった。


「手がかりは無いものか……?」

『シュランメルト。お困りのようですね』

「母さん……!」


 Asrielアスリールの声だ。


『シュランメルト。世の中には、不確実な事がいくつもあります。たとえ作戦を完璧に練り上げたとしても、それを覆す何かがある』

「それは知っているさ。ただ……今のままでは、その“不確実な事”が多すぎるんだ。タケル達の命がかかっているこの後の戦いに、不完全な態勢では戦えないだろう」

『道理ですね。ですが、あの三人を前に出すのは必定ひつじょうかと』

「ああ……だから! だからこそ、おれが何とかしないと!」

『安心してください。貴方の大事な人は私の大事な人でもあるのです。策……いえ、加護と呼ぶべきでしょうか。授けるつもりです』

「加護……か。何をするつもりだ?」

『それは明日の朝に分かる事でしょう。そうそう、その時には三人を連れて格納庫へ向かってください』

「承知した。これ以上の進展も無いし、今日はもう休むか」

『そうしてください。彼らを元の世界に戻せるかは、貴方の手にかかっているのですから』

「自覚しているとも」


 シュランメルトは本を元の場所に戻すと、書庫を後にした。




 その頃、格納庫では、Großerグローサー・ Tapfererタプファラー・ RitterリッターHellerヘラー・ Blinkenブリンケン・ SternシュテルンEwigエイヴィヒ・ Brennenブレンネン・ Flammeフランメの3台が光り輝いていた……。

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