第九章九節 休息

 数時間後。

 ベルリール城内にある自身の部屋へ戻ったシュランメルトは、ベッドに体を横たえた。


「ううむ、やはり想像が付かんな……。四本腕の大型機、加えて堅牢な装甲に、Asrionアズリオンにすら匹敵する膂力か……。埒が明かん。ひとまずリラのOrakelオラケルに置き換えてみるか」


 ノートレイアから報告された“異形の大型魔導騎士ベルムバンツェ”。その対処法を考えるシュランメルトだが、これといったものが見つからないでいた。


「1対1ならば勝てるだろう……しかし今度ばかりはそうはいかない。タケル、リリア、リンカ。誰一人として死なせず、無事に元いた世界へ送り返す……そのためには、用心を重ねてなお用心するくらいでなければならん。だが今は、確信を持って勝利出来る方法が無い……!」


 と、ノックの音が響く。

 しかしシュランメルトは思考に集中するあまり、聞こえていなかった。


「どうする……どうすれば、彼らを……!」

「シュランメルト」

「ッ、シャインハイル……! ノックくらいは、してほしいものだ……」

「しておりましたわ。何度も。その様子ですと、相当考え込んでいたのですね」

「考え込んでも仕方ないさ……。大事な人達の命を考えると、何度も作戦を練り直すのも当然だ」

「それはそうですわね。けれど、あまり根を詰め過ぎるのもよろしくないと思いますわ。一緒に湯浴みなど、いかがでしょう?」

「そうさせてもらおう。今はこれ以上の進展が見込めないからな」


 シュランメルトは思考するのを中断して、シャインハイルと共に混浴場へ向かった。


     *



「やはりお前も来るか」

「そーだよー。ずっと一人にされてたから、もう寂しくて寂しくて」


 混浴場には、パトリツィアが先回りしていた。

 なし崩しに、三人で入浴する事となる。


「ふう、何とかひと息つけたが……ううむ」


 シュランメルトは巨乳美女二人に挟まれながら、屋根を見上げた。


(守りたい……か。今までそんな感情を抱いているのは、シャインハイルただ一人だった。しかし今は、タケル、リリア、リンカまでもを守りたいとしている……。おれは、欲張り過ぎているのだろうか?)

「なーに考え事してんのー? ゲルハルトー」

「シュランメルトだ……いや、今はゲルハルトでいいな。なぁ、パトリツィア……」


 悩みを持ったシュランメルトは、パトリツィアに相談する。


「なにー? キミにしては珍しい様子だねー」

「相談したい事があるんだ。異なる世界から来た三人組を、おれは守ろうとしている。けど、シャインハイル……いや、お前達という大切な存在もまた、守りたい。それは贅沢な悩みなのだろうか……?」

「違うよ。贅沢じゃない」


 パトリツィアは即答する。

 おちゃらけた調子は、一瞬で消えていた。


「守りたい存在が何人も出来るのは、分かるよ。けど、キミにとっては全然贅沢な悩みじゃない。まだ23だから悩むのはしょうがないけど、キミには何人も守り抜く力があるんだ。出来る事だって、認識してよ」

「そうか……ありがとう」


 心に引っかかるものを取り除いてもらったシュランメルトは、パトリツィアを抱きしめる。


「わっ、ゲルハルト!?」

「やはり、お前とおれは結ばれる運命だけあって、相性が良いらしいな。無性に、落ち着く」

「そ、そうなんだ……」


 シュランメルトはパトリツィアを抱きしめたまま、呟く。


「ひとまず気がかりな事の一つは除けたが……やはり、考え込んでしまう。どうすれば……」

「シュランメルト。アルフレイド1等将官、いえ貴方のお父様であれば、どのような策を考えるのでしょうか」

「父さんなら……? 今はまだ分からん……だが、何らかの方法が見えるかもしれないな。ありがとう、シャインハイル」




 三人はしばし、お湯に浸かっていた。

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