第九章八節 共有

「あたしら紫焔騎士団1個中隊はね、ベルナ基地からの2個大隊と共にヘルムフリートの屋敷に向かってたんですわ。ヘルムフリートの犯行の証拠、並びにヘルムフリートの確保。ただ、そこでヤツは魔導騎士ベルムバンツェで待ち構えてやがった。Asrifelアズリフェル並の巨体、そして通常の腕の他にさらにおおきな腕を二本備えてやがったんです」

「異形の四本腕か。六本腕なら見覚えがあるが……」


 シュランメルトは日頃から、グスタフ専用の魔導騎士ベルムバンツェであるFlammbergフランベルクを見慣れている。腕の本数が多い事による驚愕は感じなかった。

 だがシュランメルトは、その程度の事柄がノートレイアの任務失敗の要因になるとは、まったく思っていない。


「いや、それは些細な問題だ。ノートレイアが確保し損ねるのなら、当然その魔導騎士ベルムバンツェは相応の性能を誇っていたのだろうな」

「仰る通りでございます。並の魔導騎士ベルムバンツェよりはるかに堅牢な装甲、そして膂力に至っては御子みこ様のAsrionアズリオンにも匹敵しうるかと。逃げ足も早く、フリューゲをやられていたのもあって取り逃がしちまいました」


 ノートレイアは悔しさを噛みしめながら、報告を終える。

 シュランメルトは瞬時に判断を下していた。


「ふむ、となると相当の強敵だろう。やはりお前達に更なる援護を頼んで正解だったようだな。しかし、おれAsrionアズリオンに匹敵しうる、か……」

「お伝えする事はまだあります」

「何だ?」


 シュランメルトが促すと、ノートレイアは報告を続ける。


「奴らは無人の魔導騎士ベルムバンツェを、有人の魔導騎士ベルムバンツェで操るという戦術を取っていました。機体自体は通常のHarfareysハルファレイス御子みこ様の相手ではありません。ですが……問題は別のところにあるんでさぁ」


 ノートレイアは、一度言葉を切った。


「有人のHarfareysハルファレイスにはね……。管に繋がれた、瀕死の人間がいたんですわ。ロクな会話も出来ず、聞き取れた言葉は『殺して』。ありゃもしかしたら、他にもいるかもしれませんねぇ」

「承知した。実物を見ていない以上何とも言えんが、救助も視野に入れておこう。報告はこれで終わりか?」

「はい。以上でさぁ」

「感謝する、ノートレイア。下がってくれ」




 ノートレイアを下がらせたシュランメルトは、頭の中で受け取った情報を整理し始めていた……。

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