第九章十二節 試乗

『お待ちしておりました、シュランメルト』


 格納庫に入った途端、Asrielアスリールの声がシュランメルトの脳内に響いた。


Asrielアスリールか。どんな加護を施した?」

『それを知っていただくために、皆様をお呼びしました』


 いつも通り話すAsrielアスリール

 だが、今回はいつもと様子が違った。


「あれ、聞こえる……?」

「頭の中に、直接声が……」

「はっきり聞こえるぞ!」


 普段はシュランメルトだけに聞こえる声が、タケル達にも聞こえていたのだ。


『直接お話するのはこれが初めてでしたね。私の名前はAsrielアスリール。そこにいるシュランメルトの母親、そしてこのベルグリーズ王国の守護神です』

Asrielアスリール……」

「優しい、声……」

「なんか懐かしい気分だ……」


 Asrielアスリールの穏やかな声に、三人は安らいだ気分になる。

 と、シュランメルトが呟いた。


おれに話しかける時に頭痛がしたというのは、どういう意味だ?」

『簡単です。7年間話していないのですから、脳が衝撃を受けたのです。とは言っても、物理的な衝撃ではありませんが』

「なるほどな……」

『そういう事です。さて、そろそろ皆様の魔導騎士ベルムバンツェを見ていただきましょう』


 その一言を受けたシュランメルト達は、新型機3台の前に向かった。


「見たところ、以前より光り輝いている点を除いて特に変わりは無いようだが……」

『はい。表面に、私やAsrionアズリオンの装甲と同等の金属の層を張っておきました。あとは内部の骨格全てを、やはり金属製に置き換えた程度ですね』

「いや、“程度”で済む領域の改造度合いを超えているぞAsrielアスリール


 夜の間に、かなり大幅な強化が行われていた。

 しかしAsrielアスリールは、まだ説明を始めたばかりである。


『防御力と骨格の強度を底上げし、無理な動きもある程度許容できるようにしました。加えて、操縦方法にも手を加えています』

「まさかAsrionアズリオンと同じ、とは言わんよな? タケル達は操縦桿を用いた動かし方を教わっている、いきなり操縦桿を無くすと強化どころではないぞ」

『安心してください。操縦桿はそのまま残しています。ただ……実際に動かすのが早いでしょう』

「だそうだ。乗ってくれ」

「「はい!」」


 タケル達は一度、自身の魔導騎士ベルムバンツェに搭乗した。


     *


「動かしてみた感想はどうだ?」

「何というか……“思い通りに動き”ました」


 20分程度、歩行と走行を繰り返したタケル達は、操縦の素直さに驚愕した。

 あまりに素直すぎて、勢い余って転倒寸前にまでなったほどだ。


『それが機体に施した“加護”です。今は慣れていないために安定しない動きでしたが、すぐに使いこなせるでしょう。何しろ、望み通りの動作をするように調整したのですから』


 Asrielアスリールは、事もなげに言う。

 しかし実際に搭乗し、“加護”をその身で味わったタケル達は、それを否定しなかった。


『ひとまず、私に出来る事はしました。これで満足ですか、シュランメルト?』

「ああ。あとは明日の夜を迎えるだけだ」

『分かりました。そうそう、帰還するまで皆様も私に話しかけられるようにしています。何かあったら、いつでも呼んでくださいね』




 それだけ言い残すと、Asrielアスリールは沈黙した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る