第九章六節 頼み

「タケル、リリア、リンカ。いるか? 話がある」


 ノックを済ませたシュランメルトは、中にいるであろうタケル達三人に呼びかける。

 と、タケルから返事があった。


「シュランメルトさん。どういった話ですか?」

「中で話したい。シャインハイル、フィーレ、グスタフも一緒だ。大事な話である事だけは先に伝えておこう」

「分かりました」


 タケルがドアを開け、シュランメルト達を招き入れる。

 四人は許可を得てから、ベッドの上に座った。


「話というのは他でもない。どうしても、お前達に頼みたい事がある。グスタフ、手紙を渡してくれ」

「はーい」


 グスタフが、持っていた手紙をタケル達に渡す。

 それを見た三人は、表情を驚愕と怒りに染めた。


「えっ、リラさんが……」

「まさか、私たちのせいで……?」

「許せんな……ヘルムフリート!」


 反応を示したタイミングで、シュランメルトが話を再開する。


「文面の通りだ。おれ達が世話になっているリラが、敵……ヘルムフリートに、捕らわれている。そこでお前達に協力を頼みたいのだが……正直、とても言いづらい事だ」


 シュランメルトはうつむきながら、言葉を絞り出す。


「恐らく行った場合、お前達に命の危機が降りかかる可能性がある。そんな死地に向かわせるのは、おれの本意ではない。おれ自身もああ言った手前、こんな頼み事をする資格すらも無いかもしれない。だが……それでも、言わせてくれ」


 おもむろに立ち上がったシュランメルトは、タケル達に向かって頭を下げる。


「……お願いだ。リラを助けるために、力を貸してくれ」


 その行動に、誰もが驚愕する。

 御子みこと呼ばれる国家最高峰の権力者が頭を下げるなど、控えめに言っても異例の事態だからだ。

 そしてそんな事情をはっきりとは分からないタケル達もまた、同様に驚いていた。


 そんな状況を打破したのは、リリアの一言だった。


「頭を上げてください、シュランメルトさん。私は、私達は、リラさんにたくさんお世話になりました。確かに私達には、生きて元の世界に戻るという目的があります。けど、だからと言って、お世話になった人に何も返さないのは、好きではありません。ですから――助けられた命は、ここで使います」

「! それは……」


 シュランメルトが、恐る恐る頭を上げる。

 そこには、やる気に満ちたタケル、リリア、リンカがいた。


「何度も助けてもらったのに、何もしないなんて僕には出来ない!」

「ああ! それに、ヘルムフリートとやらもぶっ飛ばしたいからな!」

「皆様……」


 フィーレが感激のあまり、目を潤ませる。

 ふとタケルが疑問に感じ、呟いた。


「けど、それには多分魔導騎士ベルムバンツェが必要だ。僕達が使ってた機体もそこそこ戦えたけど……あてはあるんですか?」

「それなら心配ない。先ほどシャインハイルとグスタフと共に、リラ工房に運び込まれた新型機を、ベルリール城に移送してある。きっちり3台だ」

「なら後は、期日までに準備するだけだな!」




 リンカの激励に続き、一同は力強く頷いたのであった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る