第九章三節 回収

 ベルリール城に戻ったシュランメルトとグスタフは、すぐさまフィーレを探す。


「シャインハイル。フィーレがどこにいるか、知っているか?」

「いえ。わたくしと話した後、どこかに……」

「承知した、ありがとう。自分で探すとしよう」

「お待ちくださいませ、シュランメルト。どうされたのですか?」


 シャインハイルに呼び止められる、シュランメルト。

 一刻も早くフィーレを探したかったが、まさか恋人から呼び止められたのを無下にする訳にもいかず、答える事に決めた。


「リラ工房に魔導騎士ベルムバンツェが納入されてな。ここまで移送したいのだが、人手が足らん。こういうのはリラ工房の関係者に運ばせるべきだと思って、フィーレを探しているのだ」

「なるほど……。しかし、だとしたらリラ殿は?」

「……彼女は“用事”があって動けない。だからおれとグスタフ、それにフィーレで運ぶ方策を立てている」

「かしこまりました」


 シュランメルトの回答を聞いたシャインハイルは、何かを思い付く。


「……でしたら、わたくしが行くのはいかがでしょう?」

「貴女がか……? フィーレの姉である以上、無関係とも言えないが……」

「僕はいいよ、お兄さん。シャインハイルひ……殿下を、お願い」

「ならば異存は無いな……」


 シュランメルトにとって、シャインハイルを参加させるのは悩んでいた。

 フィーレの姉ではあるが、リラ工房の当事者ではない。それに途中で襲撃を受ける可能性を考慮すると、少々躊躇ためらいがあったのである。


 ともあれ一度決断した以上は、実行に移すだけだ。

 シュランメルトは二人を正門前まで連れていって――そこで、問題に気づいた。


「しまったな。Asrionアズリオンは二人乗りだ。三人目を乗せた記憶は無い――」

『シュランメルト。貴方が許す限り、そして空間に余裕がある限り、乗せる事は出来ます』

「ッ、Asrielアスリールか。なら、安心して良いのだな」

『そうです。ただ、貴方が操縦する事に変わりは無いので、その点だけお忘れなきよう』


 それだけ伝えたAsrielアスリールは、再び沈黙した。


「ならば迷う事は無いな。二人とも、おれの体に触れていろ」

「はーい」

「こうでしょうか?」


 グスタフはシュランメルトの脇腹に触れ、シャインハイルは戸惑いながらもシュランメルトの左腕を抱きしめた。

 それを確かめたシュランメルトは、「来いッ! アズリオンッ!」と叫ぶ。


 果たして――シュランメルトとグスタフがそれぞれ前と後ろの座席に座り、シャインハイルはシュランメルトに抱きついていた。


「何とかなったな。では、行くか」


 シュランメルトが半球に触れ、Asrionアズリオンを飛翔させる。




 三人は何事も無く、リラ工房の敷地へと降り立つ事が出来たのであった。

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