第九章二節 思考

 リラをさらわれ、これ以上無いまでにいかれるシュランメルト。彼には想い人であるシャインハイルを拉致された苦い経験があり、それを思い出してひどく不機嫌になっていたのである。

 と、グスタフが格納庫の“見慣れない機体”を見つけた。


「何、あの機体……? すっごいキラキラしてるけど……あれって、もしかして」


 その一言にシュランメルトも耳を傾け、グスタフの後をついていく。


「ふむ……Bergionベルギオンの試作型、か。手紙にあった要求通り、あいつらを乗せるには丁度良い機体だろうが……」

「お兄さん?」

「とはいえ、下手な真似はさせない。必要なタイミングまでは控えてもらう。本当はそもそも行かせたくないが、万が一リラに何かあったら……そうなる事はあいつらも望まないだろう。ただ、協力を取り付けるのはどうだろうか。ああ言ってしまった手前、かなり話しづらい事だからな……」

「お兄さん!」


 思考に集中していたシュランメルトを、グスタフが一喝して引き戻す。


「むっ……グスタフか。ボーッとしていた……それで、どうかしたか?」

「これ、どうやってベルリール城まで運ぼうかな?」

「ううむ……」


 この場にいるのは、シュランメルトとグスタフだけだ。

 パトリツィアを呼び出すという手もあるが、彼女が一般的な魔導騎士ベルムバンツェ――新型試作機といえど操縦方法は変わらないままである――を操れるかは疑問であった。


「やむを得まい。一度格納庫の安全を確保しつつ、フィーレを呼んで操縦してもらおう」

「それだと、1台置いてきぼりにする気が……」

「安心しろ。おれAsrionアズリオンはいついかなる場所でも、元の場所に戻せる。Asrionアズリオンも試作機も、置いていったままにはしない」

「元の場所に戻す……消すって事だよね」

「少し違うが、概ねその認識で構わない。ともかく、ここを閉じてベルリール城に戻るぞ」




 シュランメルトとグスタフは手早く格納庫を閉めると、自身の機体に搭乗してベルリール城に戻ったのであった。

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