第八章四節 喪失

「リラ殿。少しよろしいでしょうか」


 Asrifelアズリフェル・_Gelbelgaゲルベルガから降りたオティーリエは、同様にOrakelオラケルから降りていたリラに呼びかける。


「はい」

「簡潔に話しましょう。異世界より来た、三人の少年少女は無事です」

「それは、何よりです……」

「ですが」


 オティーリエは多少の後ろめたさを感じつつも、伝えるべきを伝える事に決めた。


「彼らは、撃破された機体の残骸に乗っていました。色はそれぞれ、灰、青、赤です」


 それを聞いた途端、リラの体がこわばる。

 やがて、震えるような声で告げた。


「……分かり、ました」


 魔導騎士ベルムバンツェに、強い愛着のあるリラ。ましてや自ら設計した機体となれば、その悔しさはいかばかりか。

 オティーリエも自身の魔導騎士ベルムバンツェには愛着があるが、リラのものとは別種であり――しかし、リラの様子からかなりの悔しさを察していた。


「彼らは、ベルリール城にいます。御子みこ様もご同行されております。……報告は、以上です」

「ありがとうございます。ところで、一つ……」

「何でしょうか? 出来る範囲であれば」

「三人に、伝言をお願い出来ますか?」

「引き受けましょう」


 リラの頼みを聞きとどけたオティーリエは、次の言葉に意識を集中する。


「では、伝えます。『貴方達が生きていてくれて何よりです』と」

「ッ!」


 その一言で、オティーリエはリラの言わんとする事を察した。


(やはり、リラ殿の器は大きい……! グロスレーベ陛下が、ご息女であるフィーレ姫を託すだけのことはある……!)

「お願いしますね」

「もちろんです。ところで、リラ殿はベルリール城に向かわれないのですか?」

「はい、私はここに残ります。まだすべき事があるので」

「かしこまりました。謹んで、お伝えしましょう」


 オティーリエは一礼すると、Asrifelアズリフェル・_Gelbelgaゲルベルガに搭乗する。

 そのまま飛翔を始め、ベルリール城に向かったのであった。


     *


 一人残ったリラは、夜空を見上げていた。


「あれでも愛着があったのですがね……とはいえ、人命と比べられはしません。タケル様、リリア様、リンカ様。皆様が無事で良かったです」


 リラは長く息を吐くと、次の瞬間には表情を引き締めていた。


「さて、こうなってしまったものは仕方ありません。後始末、そして防衛魔術の組み直しをしなくては」




 そして屋敷に一人戻り、徹夜で作業を始めたのであった……。

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