第八章三節 紫焔

 その頃。

 ノートレイアは自身の魔導騎士ベルムバンツェAsrifelアズリフェル・_Violettiaヴィオレティアで、リラ工房付近に転がった残骸をひとまとめにしていた。


「これで十分かね。さて、そろそろ合図を送ろうかい……」

『ノートレイア!』

「おや、オティーリエかい。フヒヒ、遅いんだよ」


 Asrifelアズリフェル・_Gelbelgaゲルベルガが合流するのを見て、ノートレイアは口元をにやつかせる。


『リラ殿に報告をせよ、と御子みこ様から仰せつかってね。そっちは?』

『証拠集めさ。今紫焔騎士団を呼ぶところだよ、ヒヒッ』


 言いつつ、ノートレイアが合図に用いる照明弾を打ち上げた。

 赤みを伴う光が、夜空に輝く。


 その直後。機体から降りたオティーリエが、周囲を見回した。


「いつの間に……」

「これが紫焔騎士団さ。実体無き紫焔の如く、気づいた時には既にいる。さて、命令といこうかね」


 ノートレイアは集まった影たちを見回すと、簡潔に命令を下した。


魔導騎士ベルムバンツェで残骸を一つ残らずベルリール城に運ぶんだ。グライス家がリラ工房を襲撃した証拠を確保するんだよ」

「「了解」」


 影――紫焔騎士団の団員達――は、付近の魔導騎士ベルムバンツェに搭乗する。

 そして残骸を手早く回収すると、次々とベルリール城に向かっていった。


「さて、あたしも向かうかね。せっかくあんたと合流出来たけど、イチャつけるのはまだ先になりそうだ。我らが御子みこ様のご命令は、いつ下されるか分からないからね。ましてやあたしは特殊な役目を仰せつかっている、しょっちゅう呼ばれるよ」

「もう懲り懲りなのですけれど……」

「つれない事を言うじゃないか、オティーリエ。ま、あんたも任務があるはずだ。これ以上は邪魔しないよ」


 ノートレイアはAsrifelアズリフェル・_Violettiaヴィオレティアに搭乗すると、すぐさまベルリール城に向かって飛んで行った。


「まったく、あの人は……。しかし、紫焔騎士団を見る事が出来たのは幸運。大国とされるベルグリーズ王国においても表には出てこない、そんな存在ですからね。さて、私も任務を全うしましょう」




 オティーリエは表情を引き締めると、リラの近くまで駆け寄った。

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