第七章三節 防衛

『各機、聞こえる者は聞け! 敵は姿が見えない、しかし移動の際に音を放つ! 近くで駆動音がしたら警戒しろ!』


 城内の格納庫から出撃した王室親衛隊やリラに向け、可能な限りの大きな声で警告するシュランメルト。

 返事も聞き届けず、物音、特に魔導騎士ベルムバンツェの足音に集中していた。


(……む?)


 シュランメルトの目には、かがり火が次々と焚かれるのが映る。

 火は煌々と、わずかな煙を伴って燃えていた。


 と、かがり火が不自然にプツリと切れた。いや、正確には、「見えなくなった」のだ。


「そこか。慢心したな」


 シュランメルトは右手で大剣の切っ先を前に向け、間髪入れずに光線ビームを放つ。そのまま大剣を振り上げ、見えない何かを両断した。


「城門も切ってしまったが……緊急時だ、やむを得まい。それより、敵だが……やはりそこにいたな」


 言葉通り、煙が見えなくなったかがり火の近くで、大質量の物体が土煙を上げる。不可視の魔導騎士ベルムバンツェだ。


「各機、火や煙に注意しろ! 不自然に消えた場所があればその近くにいる!」


 シュランメルトの警告を聞いたベルリール城周辺の機体が、徐々にだが確実に無貌の魔導騎士ベルムバンツェを屠り始める。

 王室親衛隊用に強化された機体や専用機には、搭乗者の練度も相まってほとんどダメージは無かった。


     *


「次はどこだ!」


 それから数時間後。シュランメルトがまた1台、魔導騎士ベルムバンツェを残骸と化す。

 すると、敵機は撤退を始めた。シュランメルト達にはよく見えていないが、城門に続く橋へと集結し、次々とベルリール城の外へ逃げていく。


「逃げ出したか……。いくら見えなくとも、夜明けを迎えてはおれ達に視界が戻るからな。だが、これで終わりとは思えんな。まだタケル達を狙うつもりか――」


 シュランメルトが、呟きを止める。

 視線の先には、明らかに異なる機体が1機、いた。


(透明ではない……夜明け前で十分な明るさが無いとはいえ、“見える”ぞ?)


 黒のカラーリングを持つその機体は、シュランメルトに背中を向けて逃走する。

 シュランメルトは即座に追うが、かなりの速さを誇っていた。


(何が目的だ? 聞き出すか……ッ、パトリツィアがいないな。あいつがいなければ使えないか……まだ克服出来ていないとは、我ながら悔しいものだ。だが……!)


 いったん追う足を止め、Asrionアズリオンが踏ん張り始める。

 次の瞬間、全力で跳躍をし、黒い機体にあっさりと追いついた。


「止まれ」


 シュランメルトは拡声機を起動し、呼びかける。


「何をするつもりだ?」

『話すと思うか?』

「思ってはいない。だが」


 言葉を切った直後、シュランメルトは動いていた。


「こうする」


 武器をしまっていなかったAsrionアズリオンは、瞬きする間に黒い機体の両腕・両脚の基部を切り裂いていた。

 支えを失った胴体部分が、ズゥンと音を立てて地面に沈む。


「さて、荒っぽいが聞こう」


 シュランメルトは容赦せず、さらに胸部装甲にAsrionアズリオンの爪を食いこませる。

 そのまま上下に引き裂き、操縦席をあらわにした。


「貴様らの目的は既に知っているから良いとして、だ。貴様、なぜ姿の見えぬ機体に乗らずに逃げた? 逃げるならあの機体を使えば良かったものを」


 中に座っていた男をAsrionアズリオンの手で捕らえながら、シュランメルトは尋問を始める。

 が、男は笑いながら返した。


「逃げた? 違うな。おびき寄せたのさ」

「知れた事を。おれおれの機体には勝てないのは、既に散々思い知ったはずだ」

「ああ、だからお前をおびき寄せたんだよ。にな」

「ッ!」


 全てを察したシュランメルトは、Asrionアズリオンの握力で男を締め上げ気絶させると、乱暴に黒い機体の操縦席に放り込む。


「外れてほしかったものだが……まさか当たるとはな!」




 シュランメルトはわき目も振らず、そのまま城とは反対側に走り続けていった――。

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