第六章十九節 確認

「ノートレイア、いるか?」

「フヒヒッ、ここに」


 ベランダに出たシュランメルトは、ただちにノートレイアを呼び出す。


「まずは調査、ご苦労だった」

「ヒヒッ、お礼とは殊勝な事で。けど御子みこ様、本題は別にあるでしょう?」

「その通りだ。引き続き、お前に命令を下す。睦月タケル、リリア、リンカの三名を、他の神殿騎士団員共々護衛しろ」

「フヒヒ、かしこまりました」

「それと、まだ話しておきたい事がある」


 シュランメルトはノートレイアに向き直ると、真剣な表情で告げる。


「お前はグライス家から、極秘資料を盗んできたそうだな」

「もちろんでさあ」

「そうか。その事自体については咎めん。お前が一手に引き受けてくれる汚れ仕事だからな。だが、話は別にある」

「何でしょう?」

「お前はそれを、自身の仕業だと証拠を残していないな?」

「そうですが、それが? 当たり前でしょう?」


 ノートレイアは不思議そうな顔をしながら、シュランメルトを見つめる。

 シュランメルトは予想外の話を繰り出した。


「だとしたら、リラ工房に累が及ぶ可能性がある。証拠が……いや、“誰がやったかが明白な証拠”が無い以上、言い掛かりなどいくらでも付けられるからな」

「ッ、それは……」

「承知している。あくまで“最悪の場合”だ。責めを負わせるつもりも無い。だが、起こりえる事態は全て想定しておけ。対策を早くに練る事が出来るからな」


 最後にシュランメルトは、「下がって良いぞ」と告げてその場を去った。


     *


「おや、グスタフか。リラはいるか?」

「ししょー? ししょーなら、僕と同じ部屋だけど……どうしたの、お兄さん?」

「少し話がしたくてな。5分で済ませる」

「そっか」


 リラの居場所を教えてもらったシュランメルトは、ノックを3回して入室した。


「どうぞ」

おれだ。シュランメルトだ」


 シュランメルトはリラに近づくと、耳打ちして伝えた。


「リラ、お前にだけ警告しておきたい事がある。実は……」

「……なるほど、分かりました。記憶にとどめておきましょう」


 リラは一切否定せず、素直に警告を聞き入れる。


「万が一現実に起こった場合は、私が行きます」

「ああ。それに神殿騎士団を1……いや、2名付ける。タケル達の護衛に当たる団員は残しておくから安心してくれ」

「お願いしますね、シュランメルト」




 リラの礼を聞き終えると同時に、シュランメルトは部屋を後にしたのであった。

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