第六章八節 願望

「何だと……!?」


 シュランメルトの表情が、一気に険しくなった。

 だが、素早く呼吸を整えて答える。


「悪いが、許せたものではないな。ベルグレイアは建物が、物陰が多い。今の状況では、いつ何が起こるとも分からない」

「そこを何とか!」


 タケルが食い下がる。


「僕達は、もう二度とこのベルグリーズ王国には来れないかもしれないんです!」

「それでも、お前達を危険に晒す訳には……」


 なおもシュランメルトが拒否する。

 が、彼の言葉を遮る者が現れた。


『ゲルハルト。彼の、いいえ三人の願いを聞き届けてあげなさい』

「ぐっ……! Asrielアスリール!」


 シュランメルトに呼びかけたのは、ベルグリーズ王国の守護神にしてシュランメルトの母親であるAsrielアスリールであった。


『神殿騎士団に伝えておきます。護衛を頼むように、と』

「だが……!」

『それとも、神殿騎士団では心もとないでしょうか? ベルグリーズ王国の中でも最高峰の実力を有する、彼らでは』

「くっ……」

『ゲルハルト。過保護なままでは、将来子供を持ったときに、鬱陶しがられますよ』

「それは余計なお世話だ! しかし、そこまで言うなら仕方ないな……」


 シュランメルトはタケル達に向き直り、はっきりと告げる。


「仕方あるまい。明日はベルグレイアの観光だな」

「「やったー!」」

「リラ、三人を頼む。おれは少し用事があるからな」

「分かりました」


 はしゃぐタケル達を後目に、シュランメルトは部屋の外へ出た。




Asrielアスリール、いきなり話し掛けてくるな。まだ気づいていないようだから良いようなものの、はた目に分かる程異常に見られるぞ」

『仕方ありません。私に口はありませんので』

「それにしても、まさか許すとはな」

『一生に一度と無い機会ですので』

「しかし、神殿騎士団とは言ったがな……。ノートレイアは任務中だぞ?」

『もちろん、彼女を除いた4人での護衛です。不足ですか?』

「いや、不足ではない。大盤振る舞いなくらいだ」

『そういう事です』

「ともあれ、用事が終わったからな。少しシャインハイルやパトリツィアと入浴してくる」

『見守っております』

「見るな恥ずかしい!」


 シュランメルトは抗議の声を上げつつ、混浴場へ向かった。


     *


「シャインハイル?」


 混浴場のある方向から向かってきたシャインハイルを見て、シュランメルトは訝しむ。


「どうした?」

「リラ殿とグスタフ君が一緒に、笑顔で混浴場へ向かっているのを見かけました。それにフィーレも顔を真っ赤にしながら、二人の後を追っておりましたの」

「入れないという事か。入るのも無粋な気もするが」

「ええ。ですので、王族専用の浴場へ案内しますわ」

「ボクも入れてー!」


 パトリツィアが小走りで、二人の元へと向かってきた。


「来たのか」

「あったり前じゃーん、シュランメルトー」

「でしたら、本日も三人で致しましょうか?」

「こうなるのか……」




 シュランメルトは頭を抱えつつ、内心では嬉しそうに混浴場へ向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る