第六章九節 湯船

 混浴場にいるリラ達は、既に体を洗い終えて湯船に浸かっていた。


「流石はベルリール城の浴場ですね。いい湯です」

「ねー、ししょー!」

「誇らしいですわ! ところで……」


 フィーレがちらりと、グスタフを見る。


「グスタフ、貴方という人はリラ師匠と……」

「うん。いつも一緒にお風呂に入ってるよ」

「な、な、なななななな……っ!」

「知らなかったの、フィーレ姫ー? というか、当たり前の事だよー」


 グスタフはフィーレが動揺する理由を理解出来ず、キョトンとしている。

 そんな様子を見たフィーレは、ますます顔を赤くした。


「ふ、ふざけるんじゃありませんわグスタフ! あ、ああ、貴方って人はどうして、女性の裸をこう平然と見て……」

「フィーレ姫は自分から混浴に来たんでしょ? それに、ししょーが僕を連れてきたんだよー?」

「えっ?」


 予想外の一言に、フィーレがリラを見る。


「し、師匠……。グスタフの言う事は、本当、なのですか……?」

「本当ですよ。グスタフが私の屋敷に来たばかりの頃から、ほとんど一緒に入っています」

「あ、あの、非常に聞きにくいのですが……。その、恥じらい、などは……無い、のでしょうか?」

「ありませんね」


 リラはあっさりと答える。


「な、無いって……」

「そう言われましても、無いものは無いのです。それに、私に抱きついてくるグスタフが、とっても愛おしいのですよ」

「だ、だ、抱き、ついて……」


 激しく驚愕するフィーレにはわき目も振らず、グスタフがリラに抱きついた。


「ししょー❤」

「ふふっ、グスタフったら。よしよし」

「ししょー、大好き❤」

「私もですよ、グスタフ」

「こ、こらーーーーー!?」

「うわっ!? びっくりしたぁ」


 そんな状況に不満と羞恥心を抱いたフィーレは、大慌てでグスタフに抱きついたのであった。


     *


 一方、その頃。

 シュランメルト達もまた、湯船に浸かっていた。


「ふむ、以前来た混浴場とは違うな。実にいい湯だ」

「うふふっ。普段はわたくし達王族専用ですから」

「きもちいーっ!」


 三人は密着するように――正確には、シャインハイルとパトリツィアがシュランメルトに密着して――入浴していた。


「それにしても……まさかタケル達がベルグレイアを見て回りたいとはな」

「一生に一度だからいーんじゃない、ゲルハルトー?」

「そうなのだろうがな……。ううむ……」

「ゲルハルト、過保護すぎー」

「お前もか……って、お前は“変わり身”だから、同じ事を言って当然だな……」


 天を仰ぎながら、浴槽にもたれかかるシュランメルト。

 と、シャインハイルがシュランメルトの手を掴み――自らの胸に押し当てた。


「なっ!?」

「うふふ、ここで致すのでしょう?」

「それはそうだが……驚いたぞ」

「ボクもボクもー!」

「お前もか!」

「そりゃそうだよ、ボクだってシてほしいんだもん」

「のぼせないか心配になってきたぞ……」




 そうは言いつつも、シュランメルトは二人の腕を振りほどかず、させるがままにしていた……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る