第四章五節 混浴

 夕食を終えてしばらくしたシュランメルト達は、メイドに案内されて混浴場に入っていた。

 既に体を洗い終え、湯船に浸かっている。


「いい湯だねー」

「まったくだ。ところで、シャインハイル。そろそろ頼みたい」

「かしこまりましたわ。あれから引き続き書籍を読んで、把握した事柄がありますの」


 シャインハイルはひと呼吸置いてから、ゆっくりと切り出した。


「グライス家が成し遂げた成果ですが……うち4割ほどが、『今までに無かったものが何の脈絡も無く出てきた』ようなものでした」

「何だ、それは?」


 あまりにも抽象的な物言いに、シュランメルトが疑問を投げかける。


「漠然とし過ぎておりましたわね。上手く言えませんが……そう、このアンデゼルデに今まで存在していなかった何者かが、今までに無い技術を見出した、と言い換えられるかもしれません。例えば、ゲルハルト。貴方のいるリラ工房に来た方々が、今までに無い技術を発明した……そのような事が」

「一概に否定は出来んな。だが、グライス家が……ッ、待て。そういう事か、シャインハイル?」

「何一人で納得してんのー、ゲルハルトー?」


 パトリツィアはまだ、事態を把握しかねていた。

 それを見たシャインハイルが補足する。


「パトリツィア様。『グライス家は今までにも、異世界から人を呼び寄せている』という事ですわ」

「今までにも……? ああ、そういう事か。なるほどね」


 その一言で、パトリツィアも察した。


「これは、ちょっと厄介な話になるのかな……」


 パトリツィアにしては珍しく、悩んでいた。


「けど、今考えてもどーにもならないし、いったん先延ばし! ねーシュランメルトー、この場でイチャイチャしなーい?」

「生憎だが先約があ」

「もちろんシャインハイルも一緒だよー」

「うふふっ、よく分かっていらっしゃいますわねパトリツィア様」


 シャインハイルとパトリツィアの目が、野獣の眼光を宿し始める。


「ちょ、待て、二人とも……ッ!?」

「ちゅっ、ぴちゅ……❤」


 まるで「待たない」と言わんばかりに、シャインハイルがシュランメルトに口づける。舌をも絡め始め、湯船とは異なる水音が混浴場に響き渡る。


「うわーすごいやこれ。ボクもやるか」


 パトリツィアは呑気に、二人のキスを眺めていた。




 結局、三人が混浴場から上がるのは、それからおよそ一時間半後の事であった。

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