第四章四節 神殿

「グロスレーベ。神殿へ向かう」

「かしこまりました」


 神殿への直通ルートがある玉座の間にて。

 シュランメルトはグロスレーベに頼み、道を空けてもらう。


 玉座に続く階段部分が、轟音を上げて開いた。


「手間をかけたな」

「いえ。御子みこ様の為でしたら、何なりと」

「承知した」


 シュランメルトとパトリツィアは、神殿へと向かったのである。


     *


Asrielアスリール。話がある」


 シュランメルトは神殿の奥に着くと、青と金の巨大な魔導騎士ベルムバンツェであるAsrielアスリールへと呼びかける。


『はい、何でしょうかゲルハルト』


 Asrielアスリールはシュランメルトの脳内に、穏やかな声音で直接返事した。


「いつもおれを見ているなら、知っているだろう。アンデゼルデとは異なる世界から来た者達がいる、とな」

『勿論です。睦月タケル、リリア、リンカの三名ですね』

「話が早いな。その通りだ。彼らが元の世界に戻る方法を探しに来た」

『方法はあります』

「本当か!? なら……」

『ですが』


 Asrielアスリールは逸るシュランメルトをなだめるように、続ける。


『必要不可欠なものが二つあります。一つ、三名の「帰りたい」という強力な意思。二つ、召喚術の無効化。これらの条件のうち、三名の意思は感じ取れますが、召喚術はいまだ有効である、という判断です』

「つまり“術を解除させろ”、という事か。しかし、どうすれば良い?」

『術者に解除させる。考えられる手段はこれが最初です』

「あんたの力で強引に解除出来ないのか?」

『出来ない事はありませんが、最悪の場合、帰還どころの話ではなくなります。あくまで、最後の手段か、あるいは補助的な手段として用いるのが最善策かと』


 Asrielアスリールは、あくまでも穏やかに話す。

 しかしシュランメルトは、想定外の道のりの長さに頭を抱えていた。


「…………承知した。既にノートレイアやシャインハイル、グロスレーベには話を済ませている。おれの思ったよりも長く時間をかけるだろうが、何とかなるだろう。タケル達を必ず元の世界に返してみせる」

『その意気です、ゲルハルト』

「ああ。何かあったら呼びかけるぞ」

『いつでもどうぞ。私は貴方の母ですから、呼びかけには必ず応えます。では、しばしの休みを……』


 それだけ言って、Asrielアスリールは沈黙した。

 シュランメルトはパトリツィアに向き直ると、短く「帰るぞ」と告げた。


     *


 シュランメルトとパトリツィアがベルリール城に戻ってから。

 昼寝をしていた二人が目覚めると、日も沈み、辺りは夜のとばりに包まれていた。


 二人が夕食を食べに食堂へ向かうと、既に料理が揃えられていた。


「相変わらず豪勢だな」

「まっ、たっくさん食べられるからいいけどねー」


 と、そこに足音が近づく。


「収穫はありましたか、ゲルハルト?」

「ああ。Asrielアスリールの協力を取り付けた。貴女は?」

「ありますわ。けれど、今は空腹の身。夕食後、混浴か貴方の部屋で、打ち明けましょう」

「混浴場に向かう」

「ボクも混ぜてー」

「静かにしていれば許そう」

「わーい!」




 かくしてシュランメルト達は混浴の約束を取り付けると、思い思いに夕食にありついたのであった。

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