第一章四節 撃破

「十分離れたか……。ここでならば、遠慮なく戦える!」


 シュランメルトは先頭の1台に狙いを定め、逃げる間に展開を済ませていた大剣と大盾を構えて一気に距離を詰める。


「遅い!」


 緑色の機体――Emerdethエメルデスと呼ばれる――は自身に何が起きたかを理解出来ぬまま、装備していた剣と盾もろとも胸部を両断され、地面に轟音を立てて結晶片をそこいら中にまき散らす。


「まずは1台!」


 近くにいた灰と黒の機体――Harfareysハルファレイス――2台が、同時にメイスを振りかざす。

 しかしAsrionアズリオンは素早く左に跳び、メイスを振り抜く前に右腕を大盾で切断した。


『なにっ……!?』


 急にメイスと右腕が落とされ、不安定な体勢になったHarfareysハルファレイスの胸部を素早く両断する。

 続けてメイスを構えていたもう1台のHarfareysハルファレイスを大盾で弾き飛ばすと、地面に倒れた時点で機体の上に立ち、胸部を大剣で刺し貫いた。


『どうした、こんなものか?』


 シュランメルトが拡声機で呼びかけると、敵の魔導騎士ベルムバンツェ達は恐怖した。

 無理もない。12台いた内の3台が、あっという間に倒されたのだ。うち2台は接近戦を得手とする、高膂力と重装甲のHarfareysハルファレイスだ。


『しかし貴様らは何故、このベルグリーズにハドムス帝国の機体を持ち込んでいるのだろうな?』


 そう。

 Harfareysハルファレイスはベルグリーズ王国の隣国――しかも敵対している国家――の主力機体だ。


『それだけではない。EmerdethエメルデスDergeniusデルジニアス、どちらもベルグリーズ王国とは無関係なはずの機体だ』


 シュランメルトの言う通り、EmerdethエメルデスDergeniusデルジニアス――えんじと銀の機体――も、ベルグリーズ王国の機体ではなかった。


『唯一見覚えがあるのはBeschärldベシェールトくらいだが……。その不統一な機体、貴様ら正規の軍に属していないな?』

『だとしたら、何だというのだ!』


 Harfareysハルファレイスに乗った隊長格の男が、シュランメルトに食って掛かる。

 だが、シュランメルトは平然としていた。


『だとしたら? 貴様だけでも生け捕りにして王城に突き出すだけだ。いかなる手段を用いてでも、目的を明らかにさせる。先に言っておくが、おれの味方は王族を含めて無数にいるぞ。覚悟しておけ』

『くっ……全機、撤退だ!』


 号令に合わせ、残存していた9台の魔導騎士ベルムバンツェは北へ撤退していく。

 それを見るだけのシュランメルトに、パトリツィアが問いかけた。


「追わないの、シュランメルト?」

「今は追わん。優先すべき事柄がある。……リラとフィーレもいるからな」


 シュランメルトは視界に映る2台の味方の魔導騎士ベルムバンツェを見てから、全速力で南へ向かったのであった。

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