第一章三節 救出

 シュランメルトの声を聞いた謎の魔導騎士ベルムバンツェの1台が、大きくたじろぐ。


『救国の黒騎士……どうしてここに!?』

『聞こえなかったのか? ここはおれの所属する“リラ工房”の私有地だと言っている。すぐに退去しろ!』


 シュランメルトが威圧感を込めた声で、謎の魔導騎士ベルムバンツェ達に警告する。

 が、魔導騎士ベルムバンツェ達は退去しなかった。ハンドサインをしたのち、広く散開する。


『貴様ら……おれ達に対する敵対行動と見なすぞ?』

『構うものか! 各機、やれ!』


 その言葉に続けて、12台の魔導騎士ベルムバンツェが機体の各部に取り付けられた宝石から光弾を連射する。


「やめろ――!」


 タケルが声を上げる。だが、鳴り響く爆音によってかき消された。


 それから30秒ほど経って、ようやく攻撃が止む。


『これだけ撃てば、あの黒騎士といえど……何っ!?』


 黒騎士――Asrionアズリオンに、一切の傷は無かった。

 ゆっくりとした、しかし隙の無い動きで、AsrionアズリオンがT字状の棒とひし形の小盾を構える。


『今の行動が貴様らの返答か。ならばこちらも容赦はしない。今逃げれば、逃げた者は見逃すが……どうする?』


 シュランメルトの落ち着いた低い声には、濃密な殺意が宿っていた。

 隊長格とおぼしき男が返答する。


『ここで引けるか! 各機、“子供達”は後で構わん! 脅威の排除を優先しろ!』


 その言葉に、残る11台の魔導騎士ベルムバンツェが頷く。

 と、Asrionアズリオンの操縦席内部で、パトリツィアがシュランメルトに呼びかけた。


「北のギリギリまで逃げるよ。そこで戦う」

「ああ。何があったかは知らんが、あの三人を踏み潰す訳にもいかないしな」


 Asrionアズリオンが大きく跳躍し、12台の魔導騎士ベルムバンツェを北へ北へと引き付けていった。


     *


「今見えた、あの黒い騎士……。私達を、助けてくれた?」


 そう呟いたのはリリアだ。

 実際、彼女達三人を囲んでいた魔導騎士ベルムバンツェは、全てが黒騎士――もといAsrionアズリオンを追いかけて行ったのである。


 と、そこに地響きがした。


「また来る……! 逃げるよ!」

「リンカ、逃げるってどこに!?」

「あっち!」


 そう言ってリンカが指さしたのは、西の方角である。

 Asrionアズリオンが戦っている場所とも、きっちり離れていた。


 が、先手を打ったかのように声が響く。


『そこの三人、動かないでください!』

「くっ、もう見つかった! タケル、リリア、こっち!」

「分かった! リリア、ごめん!」

「きゃっ、タケル……」


 三人が固まったまま、逃げる。

 元々速く走れるリンカはともかく、そこまでではないリリアは、タケルにお姫様抱っこされていた。


『お待ちなさい! リラ師匠の話だけでも、お聞きなさいな!』


 しかし、三人の前方に、さらにもう1台の魔導騎士ベルムバンツェが現れる。

 すみれと金色を併せ持った巨人に、逃げ道を塞がれた。


「しょうがない、なら私が……」

『信用ならないのでしたら降りますわ!』


 その言葉と同時に、三人の目の前にいる巨人の胸部が開く。

 中から降りてきたのは、金髪碧眼の少女だった。


「君は……?」


 タケルが、少女に問いかける。

 少女は見た目に似合わぬ凛とした態度で、答えた。




「わたくしの名前は、フィーレ・ラント・ベルグリーズ! ここ“ベルグリーズ王国”の第二王女ですわ!」

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