第一章五節 案内

「フィーレ・ラント・ベルグリーズ……?」


 名前を反芻はんすうしたのは、リリアである。


「あんなちっちゃいのに、王女様なんだ……?」


 リンカが呟いたのを、フィーレが耳ざとく聞きつける。


「意外でしたかしら?」

「いえ、それは……」


 怒ってはいないフィーレの声に、しかしリンカがたじろぐ。

 弱冠12歳のフィーレは、年齢と外見からは想像も出来ない威厳を放っていた。


「ともあれ、わたくしが来たからにはもう安心ですわ。ひとまずはリラ師匠という、信頼のおける方に保護していただくのがよろしくてよ……あら、噂をすれば」

「えっ?」


 タケル達が見た先には、黒と銀の巨人がいた。

 マントやコートといった意匠の堅牢な装甲をまとっている姿はずんぐりとしており、わずかな愛嬌すら感じさせる。


 その巨人から、女性の声が響いた。


『ご無事ですか? フィーレ姫』

「大丈夫ですわ、リラ師匠! こちらの皆様も!」

『それは良かったです。そして申し遅れました。操縦席内部から失礼します。私はフィーレ姫に魔術を教えている、“リラ・ヴィスト・シュヴァルベ”と申す者です』


 黒と銀の機体が、うやうやしく一礼する。

 その間にフィーレは、操縦席内部に乗っていた。


『早速ですが、乗ってください。フィーレ姫、貴女にも協力していただきます。いくら大柄なOrakelオラケルといえど、手のひらに乗せられるのは二人が限界かと』

「かしこまりました、師匠! くれないの服の方、乗ってくださいませ!」


 リラがタケルとリリアを、フィーレがリンカを自らの機体の手のひらに乗せる。


『来ていたのか、リラ、フィーレ』


 その直後、Asrionアズリオンが合流する。


『ええ! わたくし達も見に来ておりましたわ!』

『まさか、お客様がいらっしゃるとは思いませんでしたが』


 話しながら、3台の魔導騎士ベルムバンツェは森から離れていく。


『ところで皆様、聞こえますか? しばらくの間、私の工房で保護させていただきます』

『安心しろ。お前達に危害を加えた連中は追い払った。加えておれの名前は、悪事を企む者に対する抑止力となる』

『積もる話もございますけれど、それは工房でさせていただきますわ』


 それを聞いた三人は、胸をなでおろす。


「良かった……皆さん、優しい人みたい」

「ああ。顔を見られたのはフィーレ姫だけだけど……きっと、他の人も優しいんだろうな」

「あー、こらタケルー! デレデレしてるよー!」


 三人は1時間ほど揺られ、リラ工房へ着いたのであった。

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