VOL.6

 その時、急に外が騒がしくなった。


 ユンボのうなる音、何か硬いものが当たる音、怒号・・・・そんなものが1ダースほど纏めて俺の耳に飛び込んできた。


 俺は物も言わずに立ち上がると、座敷を抜けて廊下に出た。

 廊下にはさっきの連中が、突っ立って俺を見ている。


 俺はドテラ男が手に持っていたM1917をもぎ取ると、そのまま玄関の扉を開けて表に出る。


 黄色いヘルメットを被った連中が、わめきながら家を壊そうとしているようだ。


 俺は銃口を空に向けて二発、続けて発砲した。


 連中の手が停まり、ユンボのうなりが止む。


『お前さんたちが何者かは知らんし、何の理由があってここを壊そうとしているのかも分らんし興味もない。だが俺がこの家に居る間は、勝手な真似は許さん。俺とやりあうか、それとも一旦引き上げるか、二つに一つだ。さあ、どうするね?』


 流石に連中も、俺が拳銃どうぐを持っているなんて、思いもしなかったんだろう。


 互いに顔を見合わせていたが、リーダー格の髭が、地面に向かって唾を吐き捨てると、

『おい、引き上げるぞ』と、部下たちに声を掛けた。


 作業服にヘルメット姿の男達は全員、ぶつくさと何か言いながらも、道具を片付けて去って行った。


 俺はちょっと格好をつけ、脇のホルスターにM1917《あいぼう》を収める。


 後ろに立っていた大東館の、俺に対する目つきが明らかに変わった。中には盛大に拍手をしてくれる者さえいたくらいだ。


『あ、ありがと・・・・た、探偵さん・・・・』ドテラ男が代表して俺に感謝の言葉を述べる。


 俺はすれ違いざま、ぽんと彼の肩を叩いて部屋の中に戻っていった。



『ここ、私たち母娘以外、住人は全部外国人なんです』


 部屋に戻ると、桂川春枝は八畳間に座って、俺に頭を下げてから答えた。


『あの人たち、他に行き場がないんです。だから母が殆ど家賃も部屋代もただ同然で住まわせてあげてるんです』


 何でも、元々は日本人の大学生相手の下宿屋だったのだが、今時風呂無し、共同便所だなんてところを、幾ら賄いつきだからって、住もうと思うような学生なんていやしない。


 次第に日本人の数は減って行き、こうなったという訳だ。


『母は困っている人を見ていると、放っておけない性格だったんですね。そのため随分苦労もしたでしょう。あの連中も、その苦労の末です。』


 なるほど、要するに良からぬところに借金か何かしたんだろう。

『それで追い立てを喰っているという奴ですか?』


 俺の問いかけに対し、春枝は素直に頷いた。


 俺達は暫く何も言わず、黙ったまま、向かい合っていた。


 母親の深雪は昼寝をしているらしい。


 ガラス障子で仕切られた隣室からは、加湿器の音と、そしてフランソワーズ・アルディの歌声が流れてくる。


 俺はシガレット・ケースを取り出し、シナモンスティックを咥え、それから続けて財布を出して、名刺を一枚置いた。


『私の知り合いの弁護士です。中堅ですが、信頼のおける民事の専門家です。私からだといえば、相談に乗ってくれるでしょう』

 お人好しだね。俺も。







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