たとえば同じケバブ屋に通っていたとして
金曜20時。
トラムに揺られながら隣に座るKの肩に頭をのせ、10分前に観終わった映画の話を
とりとめもなくする。
Kと出会ったのは3年ほど前で、元々同じ職場で働いていた仲間。言語の壁があったのにも関わらずなんとなくウマがあったというか、不思議とすぐに打ち解けて仲良くなり、周りから姉弟と呼ばれるほどには仲が良い。お互いにその職場を辞めてからも交流がある数少ない内の一人。
わたしの方が歳上なのに全然しっかりしていなくて、いつもいつもワガママを聞いてくれるのはKの方。居心地良い空気を作ってくれる彼には感謝しかしていない。
異国で暮らすわたしにとって、彼が初めて出来たネイティブの友だちで、
その存在は何よりも大きい。
特に行き先も決めずなんとなく乗り込んだトラムは金曜日のせいか、いつにも増して混んでいる。
「ねえ、どこいこうか」
「どこいこうね、川沿いで一旦降りようよ」
行き先を決めるのはいつもKで、面倒くさがりのわたしは付いていくだけ。
今日もきっとどこか良い場所に連れてってくれるんだろうな、と思い川沿いで降りることに同意し、またとりとめもない話を続ける。
「この町で一番美味しいケバブ屋、どこか知ってる?」
とKが言うのでわたしは頭の中の地図を見返す。
「〇〇ストリートの角を曲がった所にあるケバブ屋かなあ」
とわたしは言うとKが驚いた顔をする。
「俺も同じケバブ屋がお気に入り!ケバブ屋が五万とある中で同じケバブ屋選ぶなんて奇跡じゃない?」
「奇跡はさすがに言い過ぎじゃない?」
「いや、奇跡としか言いようがないよ」
「そんなに言うなら奇跡ってことにしとくよ」
「。。。ねえ、もしお互いがシングルだったら付き合ってたかなあ俺たち」
「突然どうしたの」
「いや、さあ。こんなに息ピッタリなのに付き合ってないなんて逆に変じゃない?」
「そう?」
「初めてあった時にビビッときた!この人だ!と思ったんだよね」
「そうなの?」
「で今さ、めちゃくちゃたくさんあるケバブ屋の中から全く同じケバブ屋を選んだでしょ、そしたらなんで付き合ってないんだろうなあと思って」
「お互いシングルだったらどうなってただろうね、もしかしたら私たちカップルだったかもね」
「ね」
堰を切ったようにKのスマホがなる。Kの彼女から鬼のように送られてきた大量のメッセージとボイスメールだ。「返事ちゃんと返しなよ」と言うわたしに「いま一緒にいる人を大事にしたいから」とスマホをしまうK。
そういう所だよ、いつもすぐに別れちゃう原因。と言いそうになるのを飲み込む。
「どうしても、この人の為なら、と思える人に出会うのは難しい。で、この人の為にと人生で最初に思った人が君で、しかもパートナー持ちだったから、せめて友だちとして最高に忠実でありたい」そう言って笑うK。
「ありがとね」
「こちらこそ、ありがとうSis、出会ってくれて」
パートナーじゃなくても、人生の酸いも甘いもシェアして生きていく人がいるのは
何よりも心強いことで、幸せなことなんじゃないかと思ったそんな夜のおはなし。
end.
…
(読んでいただきありがとうございます。ちなみにKはまだ彼女とうまくやっております、よかったよかった。)
P.S. ただいまコロナウイルスの影響でヨーロッパはかなりカオスな状態になっておりますが、わたしは元気にしております。みなさまご自愛下さいませね。
寧花
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