三毛猫さん
ゆーきゃん
三毛猫さんのお喋り
お空の上から、こんにちは。
私は気高き三毛猫。少し前に所謂「虹の橋」を渡って、渡り切って、ふわふわと漂う何かになったみたい。
なんだか落ち着かないから、ちょっぴり思い出話でもしようかしら。そこのあなた、聞いてくれるかしら?
私は気高き三毛猫。自由を愛し、自分を愛し、気ままに生きる気高き三毛猫。
私が住んでいた家はやたらと賑やかな家だったわ。……母は先に逝ってしまったし、おばあちゃんも逝ってしまったけど、何度か「お別れ」を経験して、「新入り」を迎え入れることもあった。
長い間一緒に過ごした家族は、妹の黒猫と、おばあ猫のキジトラ、臆病者のさび柄ちゃん、そして私とは全く馬が合わない(猫だけど…)キジ白くん。あとは下僕が3人程。
黒猫ちゃんはお転婆で、誰にでもすぐ懐く子だった。裏表がなくて、ただただ表しかないような面白い子。宅配のお兄さんによく可愛がられていたわ。
おばあ猫は、おばあの癖していい意味でおばあらしくない。小さくて細くて出べそで美人。とても綺麗な瞳の持ち主なの。下僕に構ってもらいたい時は、小柄とは思えないような力強い頭突きをお見舞いするお茶目なおばあよ。
さび柄ちゃんは一番新しい子。どこかの工場をうろうろしていたところを下僕に見つかって、計画的に保護されたとかなんとか。怖いくらい痩せっぽちだったのに、いつの間にか丸々と太って、小顔なのに、やけに身体が大きくてタヌキみたい。臆病だけど、私たち猫同士なら大丈夫みたい。よく黒猫ちゃんやキジ白くんと一緒に身を寄せ合って寝ていたわ。
キジ白くんはやんちゃで私とは全く相性が合わなくてすぐケンカになるから、一緒の部屋で過ごすことはできなかったわ。そんなキジ白くんだけど、ペットホテルに預けっぱなしにされて、殺処分されそうだったところを下僕に引き取られたそうよ。キジ白くんも大変だったのね。
私はキジ白君と相性が悪かったから、下僕の一室で過ごすことが多かったわ。その部屋には大きなお仏壇があって、お仏壇の脇には綺麗な袋に包まれた何かが置かれていたの。何やらそこには母さんやおばあちゃんの焼かれた骨が入っているらしくて、私もいつかあの箱に入ってしまうくらい小さくなってしまうのかななんて、お仏壇の前に座って真剣にお祈りしている下僕の背中を眺めながらぼんやり考えていたものね。まさか本当に自分がこの小さな箱に入ってしまうなんて、これっぽちも想像できなかったわ。
しわくちゃの下僕はいつも私を布団に入れてくれた。暖かくて、心地よくて、頭を撫でてもらうのが大好きだったわ。そんな優しい下僕だから、つい甘えちゃって、私ってばキャットフードに飽きてホタテばかり食べていたの。甘エビなんかもお気に入りだったわ。
こんな何の変哲もない日常がずーっと続いていくと思っていたけど、気が付いたらなんだか身体が重たくって、痛くって怠さを感じるようになっていったの。下僕に病院に連れていかれてあちこち診られて、どうやらガンという病気で顎の辺りに腫瘍ができてしまったそうで。下僕ったら辛気臭い顔をするもんだから、こうなったらホタテを卒業して何でも食べてやろうって一念発起したの。そしたら、久しぶりのキャットフードも案外悪くなくって、もうこれでいいやって、これを食べて最期はゆっくり眠ろうって思えたの。
猫は死に際に姿を消すって言われているでしょ?でも私は気高き三毛猫で、最期の瞬間に寒いところでのたれ死ぬなんてまっぴら御免だから、そっと押し入れの下の方で眠りにつかせてもらったわ。
先に旅立ってしまうけど、他の猫たちも「今」を精一杯楽しく過ごしてね。下僕たちはきっと、母さんやおばあちゃんの時のように悲しんでしまうだろうけど、またそのうち「新入り」を迎え入れてくれたらいいな、なんて。
一気に喋りすぎちゃったみたい。ちょっと疲れちゃったわ。……私、これからどこへ行くのかしらね。果てしない空の上?それとも、母なる海?それともそれとも遥か銀河の彼方とか?……とっても不思議な感覚がする。
だけど、私は私。どこまで行っても私は気高き三毛猫。
またどこかでお会いしたら、その時も私の話に付き合ってくださるかしら?
三毛猫さん ゆーきゃん @mochimochi-yu-can
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます