第一話 ヒステリックな彼女

6


 富崎の紹介で亜久刃あくばつかさと出会った。

 その娘は中二病でオタクである。

「亜久刃さん」

「なんだ!」

 と格好を付けて声に反応する。

「……あっ」

 ほんと面倒臭いな。

「いや……な。なんでメイド喫茶で働いているんだ?」

「それか、うん~」

 考え込む亜久刃。

「我は……実家が刃物店で、父さんと二人暮らしなんだ。だから、一人立ちしたいから、喫茶店で働いているんだ」

 と真剣な目で語った。

「そうか、しかし大変だな。俺も似たような物だ」

「主も!」

「あぁ……俺は母親と二人だ。しかし、これは何かの縁だな。これから仲良くして行けたら良いな」

「ふっ、そうだな」

 と良い雰囲気の中、もう一人の存在を忘れて話込んでいる。

 俺が居た。

「なんか……寒気が……」

 春だからか。


「随分と仲良くなったものね~」


 と嫉妬めいた言葉みたく言う声が後ろで聞こえ、恐る恐る振り向く。

「どうした、富崎」

「あんた、一瞬忘れてたでしょ! 私が居る事を」

「いや……そんな事は」

 ってなんで怒ってんだ。こいつはいつもいつも、突っかかるんだ。

「ふっ、主も災難だな。淋しいんなら、隣に来れば良いのに」

「はぁー!」

 驚きの余り叫んだ。

 おい、声がでかいよ。周りに気を遣えっての。

 はあ、そろそろ秋葉原駅前に到着だ。

「まずは、お前らで親睦を深めるのも良いんじゃねーの。同じクラスだし」

「何、寝惚けた事を言ってんの!?」

 と富崎は呆れて俺を見て来た。

 こいつは、人に慣れる気あるのか。

「まあ、同じクラスだし、変な非行に走る人―みたいなのに、関わろうとする人は居ない。そうでしょう!」

 富崎は的確な事を言って、亜久刃は悲しそうに俯いていた。

「おい、そんな事言うなよ。人にだって、これがないと、生きていけないとか、生き甲斐とかあるだろう。人それぞれだって」

「ふん! 私だって、それぐらいは分かるわ」

 とそっぽ向く富崎。

 だったらこばむなよ。

 しかしこの二人は似ているようで似てない。

「そろそろ帰るか、明日からまた学校だし」

「そうだ、主よ。折角知り合ったんだ! 連絡先交換を要求する!」

 いきなりだな。

「まぁ良いけど……はい」

 気兼ねなく連絡先を渡した。

「あんたね、もっと危機感を持ちなさいよ」

 富崎が怪訝な目で夜神を見た。

「なんでだよ! 俺が何かするとでも思ったのか!」


「重いよ、我はその~」


 其処、頬を染めるな。頬を。

「そろそろ、お開きだな。また学校で会おうな」

「えっ!? もう帰るの……」

 亜久刃は残念そうに言った。

 富崎は「はい、はい。また明日ね」と改札へと消えて行った。

「主よ……」

「亜久刃さん、明日だ」

 俺もそのまま秋葉原駅の中へ足を動かした。

 

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