第三章 栄光の影
第三章 栄光の影(1)
【一】
五回目のマーダータイムまで、残り十五分程となった。
「何度も同じことを言って悪ぃが、北条はお前を狙っている。だが、オレが止めて見せる。お前は北条を恨んでもいいが、最終的には許して欲しい」
恋愛子は、陣に連れられてロビーに向かっている。マーダータイムが開始される十二時に集合しなければ死ぬからだ。益若の部屋でベッドに縛り付けられる形で拘束されていたので、誰かの手がなければ移動することも出来なかった。
「ガムテを口に貼ってちゃ、何も言えねーよな。お前は利用されただけだと知っているオレからすれば、そんなもんはいらないと思っている。だが他の奴らがうるせーからな」
陣の言葉は、いつだってぶっきらぼうのようで、優しさも感じてしまう。正直、時に顔が綻びそうになったこともある。でも彼の真意は本当に分からなかった。
当初恋愛子は、陣が『北条を信じるな』と言っているのだと思っていた。それは恋愛子と北条の繋がりを断ち切るつもりであり、隙を突く易くするためだと。それなら簡単だ。陣の言葉なんて聞かなければいい。ただただ、これまでと同じように北条を信じれば良いのだ。
でも陣はむしろ、「北条はオレが説得するから奴を信じろ」と言っている。だいたい隙を突くといっても、一度は自分達を殺した上で生き返らせているのだ。本当に城嶋陣という男は、意味が分からない人だと思っていた。
「他の奴らにも、同じように言うつもりだ。復讐なんて止めろ、と。簡単じゃないだろうが、オレはやると決めた」
何でもない言葉のように言ったが、まるで陣の口から出て陣自身にのしかかるような、質量があるように感じる。陣の責任だと考え、自らに課しているのだろう。
たぶん、この洋館に来てから決意したのだ。いや、違うか。これまでの経験から、陣は目的を見付けたというべきか。陣の魂を見た恋愛子からすれば、想像するのは難しくない。
恋愛子に、そこまでの覚悟と呼べるものはあるのだろうか。あるはずがない。だってこれまで、ひたすらに北条に従って生きてきたのだから。陣に訴えかけられてなお、自分のこれからが変わるとは思えなかった。
あわよくば、陣の行動をずっと見ていたい。そうすれば、自分の中にある、全く開かない錆び付いた鉄の扉が、一センチでも一ミリでも開くのではないだろうか。けれど自分は、マーダータイムが開始されたら益若の部屋に戻され、また拘束されてしまう。
これで、本当に良いのだろうか。
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